うつ病や統合失調症といった精神障害のある人の中には、「精神障害のある人が利用できる就労移行支援はどんなものがあるの?」や「精神障害があるけれど、就労移行支援事業所を利用したら就職できるの?」と疑問を持っている方もいるかもしれません。
この記事では、精神障害のある人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れや就職率、精神障害のある人も利用対象の就労移行支援事業所をご紹介していきます。
精神障害・精神疾患のある人が利用できる就労移行支援とは
就労移行支援事業所は、一般企業で働くことを希望する障害や難病のある人が、訓練や実習等を通して、適性に合った職場への就労や定着を目指すサービスです。
利用期間は原則24ヶ月(2年)以内で、自身の精神障害に関する理解や適性を把握することや就労に必要な知識・スキル向上のためのトレーニング、就職活動のサポートを受けることができます。
就労移行支援事業所を利用できる精神障害・精神疾患の例
就労移行支援事業所の利用対象となる精神障害(発達障害を含む)の例をご紹介します。精神障害者保健福祉手帳の等級が3級であっても1級であっても、就労移行支援を利用することができます。
また、精神障害者保健福祉手帳を持っていないグレーゾーンの方の場合でも、主治医の意見書等があれば就労移行支援を利用できます。
- 統合失調症
- うつ病、そううつ病などの気分障害
- てんかん
- 薬物依存症
- 高次脳機能障害
- 自閉スペクトラム症
- 学習障害
- 注意欠陥多動性障害等
- そのほかの精神疾患(ストレス関連障害等)
就労移行支援を利用した精神障害のある人の就職率
「就労移行支援事業所に通ったら就職できるのだろうか?」と不安に思う人もいるかもしれません。ここでは、東京都の調査を例に、精神障害のある人で、就労移行支援事業所を利用して就職した人の割合をご紹介します。
以下の図のように、就労移行支援を利用した精神障害(発達障害含む)のある人の就職率は、2021年度に『50.4%』となっており、半数が就労移行支援を卒業した後に就職をしています。
就労継続支援A型における2021年度の就職率は『6%』ですので、就労移行支援の就職率は障害福祉サービスの中でも高いことが分かります。
精神障害のある人が就労移行支援を利用して就職するまでの流れ
精神障害のある人が就労移行支援事業所に通い始めてから就職するまでの流れは、大きく分けて3つのステップに分かれます。
通所前期(基礎訓練期)
通所前期(基礎訓練期)には、個別支援計画をもとに、継続的に就労移行支援事業所に通えるように生活リズムを整えることや、自身の障害に関する理解や適性を把握することなど、企業で働くための基礎的な訓練を行います。
事業所によっては、
- 臨床心理士・公認心理師によるカウンセリングを受ける
- 自己認知・自己肯定感を上げる方法を学ぶ
- 落ち込んだときの対処法を身に付ける
- 睡眠チェック表をつける
- コミュニケーションの取り方を学ぶ
- 認知行動療法を行う
- SST(ソーシャルスキルトレーニング)を行う
といったプログラムを行うところもあります。
通所中期(実践的訓練期)
続いて、基礎体力の向上や自身の適性や課題の把握が進むと、ビジネスマナーの習得や職場実習などの企業で働くための実践的な訓練を行うことになります。
就職活動では企業の人事担当者に障害に対する配慮事項や対応方法などを説明する場面もあるため、自身の障害についての伝え方を考え、実践するプログラムがある事業所も多いです。
通所後期(就職準備期)
こうして就職するためのスキルや体調が整ってきたら、一般企業などへの就職に向けて、自身の希望や特性にあった職場を見つけるために、事業所のスタッフによるサポートを受けながら求職活動を行います。また、就職後6ヶ月後から定着支援サービスを行う事業所も多く、そうした事業所では就職後3年半までサービスを受けることができます。
精神障害のある人が利用できる就労支援の種類
就労移行支援事業所以外にも、精神障害のある人が利用できる就労支援はあります。ここでは、就労支援の種類やそれぞれの特徴を紹介していきます。
- 障害者就業・生活支援センター
- 就労継続支援A型事業所
- 就労継続支援B型事業所
- 地域障害者職業センター
- ハローワーク
①障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害のある人の自立した雇用を図るために、就業と日常生活の両面からサポートする支援機関です。
就職に向けた準備や就職活動の支援といった就業面でのサポートのほか、生活習慣の形成や健康管理、金銭管理といった生活面でのサポートを受けることができます。
また、就労移行支援事業所やハローワーク、保健所などの関係機関との連絡調整も行ってくれます。
②就労継続支援A型事業所
就労継続支援A型は、一般企業等で働くことが難しい障害がある人等が、雇用契約を結んで最低賃金以上の給料をもらいながら働くことができるほか、能力等の向上のために必要な訓練を行うサービスです。
就労継続支援A型事業所で働く中で、一般就労に必要な知識や能力が高まった場合は、一般企業で働くためのサポートを受けることもできます。
また、就労継続支援A型事業所から就労移行支援事業所に移る人もいます。
③就労継続支援B型事業所
就労継続支援B型は、一般企業等で働くことや雇用契約に基づく就労が難しい障害のある人が、工賃をもらいながら働くことができるほか、能力等の向上のために必要な訓練を行うサービスです。
就労継続支援B型事業所へ通う中で、一般就労に必要な知識や能力が高まった場合は、一般企業で働くためのサポートを受けることもできます。しかし、一般就労への移行者割合は令和3年度時点で『10.1%』と、就労移行支援事業所や就労継続支援A型事業所に比べると低くなっています。
(参考:厚生労働省 就労移行支援に係る報酬・基準について)
④地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、障害のある人に対する専門的な職業リハビリテーションを提供する施設で、都道府県に最低1ヶ所以上設置されています。
障害のある人が、就職に向けた支援や職場定着に向けた支援、求職者の職場復帰支援などを受けることができます。
⑤ハローワーク
ハローワーク(公共職業安定所)は、国(厚生労働省)が運営する就労をサポートするサービスです。
全国のハローワークには、障害がある人向けに専門的に相談にのる窓口が設置してあり、専門知識のあるスタッフが担当制によって応募書類の作成支援や模擬面接といった支援を行っています。
自治体によっては、埼玉県大宮市の「ハローワーク大宮 精神障害者トータルサポーター・発達障害者トータルサポーター」のように、精神障害に特化して支援を行っているハローワークもあります。
精神障害がある人も利用対象の就労移行支援事業所の一覧
ここからは、精神障害がある人に向けて、就労移行支援事業所をご紹介していきます。ここでは一例として東京都や千葉県の就労移行支援事業所を挙げていますが、デイゴー就労支援ナビではお住まいの都道府県や駅から、精神障害のある人が利用できる就労移行支援事業所を探すことができます。
ニューロリワーク 五反田センター
- 五反田駅より徒歩5分
- うつ病・適応障害の方等それぞれのお悩みに寄り添って支援
- リモート可
ディーキャリアITエキスパート田町オフィス
- 臨床心理士によるカウンセリング
- 発達障害の特性に応じたコンテンツ
- ITエキスパートのコースあり
就労移行支援事業所 Pinto
- 流山おおたかの森駅より徒歩2分
- リワークプログラムあり
- 一般就労移行率94%(2022年)
ラルゴ神楽坂
- 精神障害・発達障害に特化
- 職場定着率100%(2021年、2022年)
- 江戸川橋駅より徒歩5分、神楽坂駅より徒歩10分
ジョブトレーニング事業所 E・G・B・A
- 定員数6名の少人数制
- 大塚駅より徒歩7分
- 個別カリキュラム・個別支援
リエンゲージメント
- 精神疾患に特化した離職者向けリワークのパイオニア
- 臨床心理士・公認心理師が在籍
- 新宿御苑前駅より徒歩3分
精神障害のある人におすすめの就労移行支援事業所の選び方
精神障害がある人が就労移行支援事業所を選ぶ際には、以下の観点から事業所を比較してみるのがおすすめです。
- 精神障害のある人への支援実績がどのくらいあるか?
- 通所している人で、精神障害のある人の割合はどのくらいか?
- 精神障害のある人向けのカリキュラムはあるか?
また、こうした精神障害のある人への支援実績のほかにも、駅からの距離や活動内容、一般就労移行率など、事業所によって様々な違いがあります。
デイゴー就労支援ナビでは、お住まいの地域や最寄り駅から通いやすい就労移行支援事業所を探し、対象となる障害や活動内容などを比較検討できますので、ぜひご活用ください。
就労移行支援事業所に関するよくある質問
就労移行支援事業所を利用しながら働くことはできるの?
障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律の改正に伴い、2024年4月1日より、以下の条件に当てはまる場合は、一般就労中でも就労移行支援事業所を一時的に利用することができるようになりました。
- 通常の事業所に雇用された後に労働時間を延長しようとする場合
- 休職からの復職を目指す場合
- 就労移行支援の利用を経て、所定労働時間が概ね週10時間未満の所定労働時間で一般企業等へ就職した場合
就労移行支援事業所の利用期間に制限はあるの?
就労移行支援事業所は利用期間に期限が設けられており、原則として最大2年(24ヶ月)までとなっています。
ただし、2年間の標準利用期間が経過してしまった場合でも、市町村による個別審査で必要性が認められた場合は、最大1年間、利用期間を更新することができます。
就労移行支援事業所の利用条件・対象者は?
就労移行支援事業所は、以下の4つの条件を満たしている人が対象者とされています。
- 一般就労を希望している
- 障害・難病がある
- 65歳未満である
- 適性に合った職場への就労等が見込まれる
サービスを利用できるかどうかの判断は市区町村が行っているため、「自分は就労移行支援事業所の利用対象者なのだろうか?」と不安の場合は、お住まいの市区町村の障害福祉担当部署にまずは相談してみてください。
障害者手帳なしでも就労移行支援事業所を利用できるの?
就労移行支援事業所を利用する際は、主治医の意見書や自立支援医療受給者証等があれば、障害者手帳を持っていなくてもサービス利用の申請をすることができます。
就労移行支援と就労継続支援の違いは?
就労移行支援事業所と就労継続支援A型・B型事業所の大きな違いは、利用期間と一般企業等への就職率です。
就労移行支援が一般企業へ就職する人の割合が『56.3%』と一番大きく、反対に就労継続支援B型が一般企業へ就職する人の割合が『10.1%』と小さくなっています。さらに精神障害のある人に限定すると、就労移行支援が一般企業へ就職する人の割合が『50.0%』、就労継続支援A型が『6.3%』、就労継続支援B型が『1.9%』と、就職率の違いは大きいです。※
また、就労移行支援事業所は利用期間が原則2年間となっていますが、就労継続支援事業所は利用期間に制限がありません。
就労移行支援と就労継続支援の違いについては、こちらの記事でも詳しく紹介しています。
※参考:厚生労働省 「就労移行支援に係る報酬・基準について」、東京都福祉局「令和4年度就労移行等実態調査」より
最後に
ここまで、精神障害のある人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れや就職率、精神障害のある人も利用対象の就労移行支援事業所をご紹介してきましたが、いかがでしたか。
精神障害のある人が利用できる就労移行支援事業所の中でも、利用定員や駅からの距離、一般就労移行率など、様々な違いがあります。ご自身にあった就労移行支援事業所に通うためにも、事前にいくつかの事業所の見学や体験に行き、比較検討してみることが大切です。
最後までお読みいただきありがとうございました。