学習障害があり働くことが難しいと感じている方や、休職している方の中には、「学習障害がある人は就労移行支援事業所を利用できるの?」や「就労移行支援事業所を利用するとどんなメリットがあるの?」といった悩みを持っている方もいるかもしれません。
この記事では、学習障害のある人が就労移行支援事業所を利用するメリットや就職するまでの流れ、発達障害のある人の支援に特化したコースのある大手の事業所について、就労移行支援事業所の支援員経験がある筆者がご紹介していきます。
学習障害(LD)とは
学習障害は、発達障害の一種として位置づけられています。全般的な知的発達に遅れはないにもかかわらず、「聞く」「話す」「読む」「書く」「計算する」「推論する」という学習に必要な基礎能力のうち、1つ以上の能力がうまく習得できず、学習の面で様々な困難を抱えている状態をいいます。LD(Learning Disabilities)と略されることもあります。
学習障害(LD)の特性
学習障害(LD)の特性には以下のようなものがあります。
- 読字障害(ディスレクシア)
文字を読むことに困難を感じます。文字と音が結びつかない、文字が歪んで見える、などが要因で文字を正確に読めないといった特性があります。
- 書字表出障害(ディスグラフィア)
文字を書くことに困難を感じます。文字の形を認識できない、鏡文字になってしまう、マス目から大きくはみ出してしまうといった特性があります。
- 数字障害(ディスカリキュア)
計算や数学的推論に困難を感じます。九九が覚えられない、図形が理解できない、数の概念が理解できないといった特性があります。
学習障害(LD)のある人は就労移行支援を利用できるの?
就労移行支援事業所は、障害や難病などのために就労が困難な人に対して、就労の準備や就職活動をサポートするサービスです。
学習障害が要因で就職活動がうまくいかない人も、就労移行支援事業所を利用できる可能性があります。
- 一般企業での就労を希望し、訓練によってそれが見込める人
- 18歳以上65歳未満の人
- 障害や難病がある人
- 離職中である人(休職中でも利用できる可能性あり)
障害者手帳がなくても就労移行支援に通える?
障害者手帳がなくても就労移行支援事業所を利用できる可能性はあります。
主治医が「就労移行支援事業所の利用が適切である」と判断し、その旨を診断書または意見書に記載した上で、それが市区町村で承認された場合に利用ができます。
学習障害(LD)のある人が就労移行支援事業所を利用するメリット
学習障害(LD)のある人が就労移行支援事業所を利用するメリットは主に3つあります。
メリット①学習障害(LD)についての理解を深めることができる
就労移行支援事業所の中には、発達障害のある人を中心に受け入れている「発達障害特化型」の事業所もあります。
発達障害特化型の就労移行支援事業所は、学習障害を含む発達障害についての理解を深めるプログラムが充実していることが多いです。
自身がどんな場面で困難さが生じるのか、という特性を知ることは、就職する上で大切なことです。
プログラムを受けたりスタッフと相談したりしながら、自身の特性について理解を深めましょう。
メリット②自分の苦手な場面の対処法を身につけることができる
自身の特性についての理解が進むと、就職後に困難となる場面が具体的にわかるようになってくるでしょう。
例えば、仕事中に会議でメモを取ることができないことや、マニュアルを読むときに読み飛ばしてしまうなどです。
就労移行支援事業所では、そのような場面での対処法をスタッフと一緒に考えることができます。
さらに、模擬就労訓練など、仕事の場面を想定したプログラムに参加して対処法を身につけていくことができます。
メリット③就職後も継続して相談することができる
自身の特性に合った職場に就職しても、就職後に想定外のことが起こることがあります。
就労移行支援事業所は就職後6ヶ月、事業所によっては最大3年6ヶ月まで、継続してサポートしてくれます。
就職後に困ったことがあればすぐに相談できる環境があることは、大きなメリットです。
学習障害(LD)のある人に向いている仕事・就職先は?
学習障害のある人は文字や数字を扱うことが苦手な一方で、視覚で物事を把握するのが得意な人や、論理的思考力が高い傾向にある人もいます。
人によって向き不向きに違いはありますが、一般的に、そういった特性がある人には以下のような仕事が向いているといえます。
- Webデザイナー
- カメラマン
- プログラマー
- 製造業
- 数字を扱う経理
- 電話をしながら記録が必要なコールセンター
- 多数の書類を扱う事務作業
令和5年度の厚生労働省の調査によると、発達障害がある人の雇用者数は推計91,000人であり、そのうち学習障害のある人は2.4%、すなわち推計『2184人』とされています。
発達障害のある人の就職先を産業別に見ると、卸売業・小売業が最も多く、次いでサービス業、製造業となっています。
職業別では、サービスの職業が最も多く、次いで事務的職業、運搬・清掃・包装などの職業の順になっています。
(参考:厚生労働省 令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書)
学習障害(LD)のある人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れ
学習障害(LD)のある人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れを以下のステップごとに説明します。
ステップ①:基礎訓練
まずは、通所に慣れるところから始めます。多くの就労移行支援事業所では少ない日数から通所できますので、少しずつ通所に慣れていきましょう。
通所開始時には、契約書・個別支援計画書・事業所の利用マニュアルなど、たくさんの書類が手渡されると思います。
わからないことをそのままにせず、スタッフと一緒に一つ一つ内容を確認しましょう。
この段階では、あまり負荷がかからないプログラムを受講することが多いです。
一例として、パソコンプログラム初級、ビジネスマナー、スポーツプログラムなどが挙げられます。
ステップ②:実践的訓練
通所に慣れてきたら、就労に向けての訓練に取り組んでいきます。
自身がどのような場面に困難さを感じるのか、その場面ではどのように対処したらいいのか、具体的に考えていきましょう。
しかし、一人で対処法を身につけることは難しいことです。自身と似たような困難さがある利用者と話したり、スタッフに聞いたりしながら進めることをおすすめします。
この段階では、自己理解を促すプログラムや、実践的な職業訓練を受講します。
一例として、自己理解促進プログラム、障害理解プログラム、模擬就労訓練、パソコンプログラム中級などが挙げられます。
ステップ③:就職準備
実践的な訓練を受けたのちに、就職活動を進めていきます。就職活動が初めての人でも、スタッフがサポートしてくれるので安心です。
就職活動は、求人探し・企業見学・応募書類作成・面接と進んでいくことが多いですが、ペースは人それぞれです。そのため、この段階では個別対応になることが多いでしょう。
就職活動が始まると、キャリアカウンセリング、応募書類の添削、面接練習などを個別で受ける時間が増えていきます。
ステップ④:就職・定着支援
就職後も6ヶ月間、継続して就労移行支援事業所のサービスが続きます。これを職場定着支援といいます。
職場定着支援の期間中は、職場で困りごとがあった場合などにスタッフに相談をすることができますので、悩みごとがあれば、早い段階で就労移行支援事業所に連絡しましょう。
※就職後、さらに最大3年間の定着支援サービスを提供している事業所もあります。
発達障害に特化した大手の就労移行支援事業所の一覧
就労移行支援事業所の中には、全国展開している大手の事業所があります。ここでは、発達障害に特化した大手の就労移行支援事業所について紹介します。
大手の就労移行支援事業所は利用者数が多いため、発達障害のある人が就職するためのノウハウがたくさん蓄積されているというメリットがあります。
また、企業とのつながりが多いため、様々な業種や職種に詳しいという特徴もあります。
サービス名 | 特徴・ポイント |
---|---|
ディーキャリア(d-career) | 発達障害の特性に応じたコンテンツ就職後の職場定着率は91.3%(2022年)全国に91事業所 |
atGPジョブトレ | 事務職での就職率は94.5%(2019-2020年)5つの障害別コースあり就職後の定着率は91%(2019年) |
Kaien | 就職人数は約2,000人(過去10年間)就職後1年後の離職率は9%発達障害や精神障害に理解ある企業200社以上と連携 |
学習障害のある人で就労移行事業所を利用して就職した事例
ここでは、発達障害のある人が就労移行支援事業所を利用して就職・復職した事例を紹介していきます。
20代の利用者が就職した事例(発達障害、精神障害)
就労移行支援事業所に通所する前は、コミュニケーションや対人関係に自信がありませんでした。仕事ではつい無理をしすぎてしまい、疲れてしまうことが多かったです。どんな仕事が向いているのかもよくわからなくて不安でした。
就労移行支援事業所に通所することで、どんなときに疲れてしまうのか理解して、無理をしないことを意識できるようになりました。
自分の苦手な作業がわかり、同じ作業でも理解しやすい指示のもらい方があることに気がつきました。
40代の利用者が就職した事例(発達障害、精神障害)
前に勤めていた会社では人間関係がうまくいかなくなり、会社を辞めることになりました。その時点で、また就職できるかという不安がありました。
就労移行支援事業所に通ったことで、自分一人では見つけられない「強み」と「苦手」を確認することができ、特性に対する対処方法を見つけることもできました。また、「何のために働くのか」「自分のなりたい姿はどういうものなのか」といったことを深掘りすることができました。
今は公私ともに安定した生活を送っています。周囲の人たちとうまくコミュニケーションを取れるようになり、順調に仕事を続けられています。
自分に自信がついたことで、プライベートも充実し、家庭も円満です。このままのペースで続けていきたいと思います。
30代の利用者が復職した事例(発達障害)
以前は思い通りにいかないと「障害だから」と悩んでいました。周囲からは「甘えじゃないか」といわれてつらかったです。
就労移行支援事業所に通うことで、障害特性に対する向き合い方が変わりました。自分はマルチタスクが苦手、指示理解が入らないなど課題が山積みでしたが、そもそも問題自体に気付いていませんでした。
色々なプログラムにチャレンジし、スタッフと現状を整理しながら、自分がやりやすい解決方法を考えていくことができました。また、スタッフや他のメンバーからの声がけにより励まされ、自信が持てるようになりました。
学習障害(LD)のある人におすすめの就労移行支援事業所の選び方
ポイント①個別支援が充実している
学習障害(LD)のある人は、人それぞれ困りごとの要因が違います。
例えば「文章を読むのが苦手」という困りごとでも、文字と音が結びつかなくて読めないケースや、文字が歪んで見えるから読めないケースなど、要因が様々です。
要因が違えば、対処法も違います。個々の特性に合わせた支援が受けられるところを選ぶと、通所中や就職後の不安が軽減するでしょう。
ポイント②多様な訓練プログラムがある
学習障害(LD)のある人は特性によって得意・不得意に大きな差があります。自身の得意なプログラムがあると、継続して通うモチベーションになるでしょう。そのためにも、多様なプログラムがあると選択肢が広がります。
また、発達障害特化型の就労移行支援事業所は、発達障害のある人に向けてのプログラムが充実しているので、より特性に合ったプログラムを受けられる可能性が高いです。
ポイント③就職後の支援が充実している
自身の特性に合った職場を選んで就職しても、就職後に困難さを感じることは少なくありません。
就職後に困ったことがあればすぐに相談できるように、就職後の支援が充実している就労移行支援事業所を選ぶことをおすすめします。
就労移行支援事業所に関するよくある質問
Q1.就労移行支援事業所の利用条件・対象者は?
就労移行支援事業所は、以下の4つの条件を満たしている人が対象者とされています。
【就労移行支援事業所の対象者】
- 一般就労を希望している
- 障害・難病がある
- 65歳未満である※
- 適性に合った職場への就労等が見込まれる
サービスを利用できるかどうかの判断は市区町村が行っているため、「自分は就労移行支援事業所の利用対象者なのだろうか?」と不安の場合は、お住まいの市区町村の障害福祉担当部署にまずは相談してみてください。また、就労移行支援事業所のスタッフがサポートしてくれる場合もあります。
Q2.就労移行支援と就労継続支援の違いは?
就労移行支援事業所と就労継続支援A型・B型事業所の大きな違いは、利用期間と一般企業等への就職率です。
就労移行支援が一般企業へ就職する人の割合が『56.3%』と一番大きく、反対に就労継続支援B型が一般企業へ就職する人の割合が『10.1%』と小さくなっています。※
また、就労移行支援事業所は利用期間が原則2年間となっていますが、就労継続支援事業所は利用期間に制限がありません。
※参考:厚生労働省 「就労移行支援に係る報酬・基準について」より
Q3.就労移行支援事業所は利用料がかかるの?
就労移行支援事業所の利用者が負担する料金は、1回あたりおよそ500円〜1,400円です。ただし、所得に応じてひと月当たりの負担上限金額が決まっているため、自己負担額なしで就労移行支援事業所を利用する人も多いです。
厚生労働省によると、障害福祉サービスを利用している人(98.5万人)のうち、約92.7%が無料で利用していることがわかっています。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
---|---|---|
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯※1 | 0円 |
一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満※2)ただし、入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除く※3 | 9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
※1
3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入がおおむね300万円以下の世帯が対象。
※2
収入がおおむね670万円以下の世帯が対象。
※3
入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、「一般2」に該当。
世帯の範囲は、障害のある人とその配偶者となっています。例えば同居している親の収入が700万円あったとしても、世帯収入とみなされるのは本人の収入のみとなります(18歳以上の場合)。ただし、配偶者がいる場合は、配偶者の収入も世帯収入に加えられます。
最後に
ここまで、学習障害のある人が就労移行支援事業所を利用するメリットや就職するまでの流れ、発達障害のある人の支援に特化したコースのある大手の事業所について、就労移行支援事業所の支援員経験がある筆者がご紹介していきましたが、いかがでしたか。
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最後までお読みいただきありがとうございました。