高次脳機能障害のある人が就労移行支援を利用して就職するまでの流れを元支援員が解説

高次脳機能障害があり働くことが難しいと感じている人や休職している人の中には、「高次脳機能障害のある人は就労移行支援を利用して就職できるの?」といった疑問を持っている人もいるかもしれません。

この記事では、高次脳機能障害のある人が就労移行支援事業所で受けられるサポートや向いている仕事の例、就職までの流れなどについてご紹介していきます。

この記事の監修者

メンタルエイド代表。サービス管理責任者、社会福祉士、精神保健福祉士、ジョブコーチ、心理カウンセラー、幼稚園教諭。就労移行・就労定着支援サービスを行う事業所に12年従事。120名の障がい者就労の実績があり、面談は1,000人以上。多くの面談実績からオリジナルの上村式認知整理面談技法を発案。

目次

高次脳機能障害の症状

高次脳機能障害とは、ケガや病気で脳の一部を損傷したことによって、記憶・注意・言語・思考などの脳機能に障害が起こった状態のことをいいます。

外見からはわかりにくい障害であるため、日常生活に支障をきたす場面が多くみられます。

(参考:東京都福祉局 ハートシティ東京

高次脳機能障害のある人は就労移行支援を利用できる?条件は?

就労移行支援事業所は、障害や難病がある人に対し、就労に向けての訓練プログラムや就職活動のサポートを提供するサービスです。

対象者は、以下の条件に当てはまる人です。

就労移行支援事業所の対象者
  • 一般企業での就労を希望し、訓練によってそれが見込める人
  • 18歳以上65歳未満の人※
  • 障害や難病がある人
  • 離職中である人(所定の条件を満たせば休職中も利用可)

これらの条件に当てはまる高次脳機能障害のある人は、就労移行支援事業所の対象となります。

また、障害者手帳がない人でも、主治医が「就労移行支援事業所の利用が適切である」と判断し、その旨を診断書または意見書として市区町村に提出し、認められた場合は利用が可能です。

※65歳以上の人でも、65歳になる前5年間に障害福祉サービスの支給決定を受けており、かつ65歳になる前日までに就労移行支援の支給決定を受けていた場合は就労移行支援を引き続き利用することが可能です。

高次脳機能障害のある人は就労移行支援でどんなサポートを受けられるの?

高次脳機能障害のある人は、企業等へ就職して働くために、就労移行支援事業所で以下のようなサポートを受けることができます。就労移行支援事業所から一般企業への就職率の全国平均は54.7%となっていますが、事業所ごとによって就職率が違います。

【高次脳機能障害のある人が就労移行支援で受けられるサポート】

  • 就労に向けての訓練
    • 作業能力の評価と訓練、コミュニケーションスキルの向上、ビジネスマナーの習得、パソコンスキル訓練など
  • 就職活動のサポート
    • 求人検索・応募書類作成・企業見学や実習・面接練習など
  • 就職後のアフターフォロー
    • 就職後6ヶ月間、事業所によっては3年間サポートが継続するところも

高次脳機能障害のある人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れ

高次脳機能障害のある人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れをステップごとに説明します。

ステップ①:基礎訓練

まずは、就労移行支援事業所の通所に慣れることを目指します。

多くの事業所では、少ない日数から通所を始められるため、無理せず少しずつ慣れていきましょう。

高次脳機能障害のある人は、遂行機能障害や注意障害などが原因で、公共交通機関を使うことが困難な場合もあります。

就労移行支援事業所によっては通所のルートや手段などを一緒に考えてくれるところもあるので、スタッフと安全に通所できる方法を考え、通所に慣れていきましょう。

この段階では、負荷の少ないプログラムを受講することが多いです。一例として、生活全般について学ぶライフスキル、ビジネスマナー、スポーツプログラム、簡単なパソコンプログラムなどがあります。

ステップ②:実践的訓練

通所に慣れてきたら、就労に向けた実践的な訓練に取り組んでいきます。実際の作業に挑戦することもあります。

高次脳機能障害のある人は、発症前にできていたことが、実際にやってみると「思ったようにできない」と感じることもあるかもしれません。

焦りを感じることもありますが、無理なくできる仕事が見つけられるよう、スタッフがしっかりサポートしていきます。

この段階では、作業を通して職業評価を受け、ご自身に合った作業を見つけていきます。その他、自己理解を促すプログラムや障害理解プログラムを受けることもおすすめです。

ステップ③:就職準備

実践的な訓練を受けたのちに、職業評価をもとに就職活動を進めていきます。高次脳機能障害を発症してから初めて就職活動に取り組む人でも、スタッフのサポートがあるので安心です。

就職活動は、求人を探すことから始まります。たくさんの情報から必要な情報を絞ることが難しい場合は、スタッフと相談しながら進めていきましょう。

就職活動が始まると、求人を探す、応募書類の添削、面接の練習などを個別で受ける時間が増えていきます。

ステップ④:就職・定着支援

就職後も6ヶ月間、継続して就労移行支援事業所のサービスが続き、これを職場定着支援といいます。

職場定着支援の期間中は、職場での困りごとをスタッフに相談することができるので、悩みごとが生じたら早い段階で就労移行支援事業所に連絡しましょう。

※一部の事業所では、6ヶ月の就職定着支援期間のあとも、最大3年間の定着支援サービスを提供しています。

高次脳機能障害のある人に向いている仕事・就職先は?

高次脳機能障害のある人に向いているといわれる仕事や就職先について説明します。

記憶障害や注意障害がある場合は、複雑な手順の作業よりも、なるべく手順が少なくて単純な作業を繰り返す作業が向いているといえます。

マニュアルがある作業は、作業手順を忘れてもマニュアルを見返すことができるので安心です。

高次脳機能障害のある人に向いている仕事の例
  • 手順が決まっている事務作業
  • 商品の梱包
  • 店舗のバックヤード、品出し

高次脳機能障害の症状は一人ひとり異なり、例えば脳血管障害が原因で高次脳機能障害になった人は身体に麻痺が出ていることもあります。

上記は一例として参考にしながら、ご自身に合った仕事を探していくことが大切です。

高次脳機能障害のある人は避けた方がいい仕事は?

一方で、高次脳機能障害のある人は、複数の仕事を同時にこなすことや、状況にあわせた柔軟な対応が難しい場合があります。

また、大型機械があるような工場は、注意力が散漫になったときに命に関わる事故を引き起こす可能性があるので、避けた方が良いでしょう。

高次脳機能障害のある人が避けた方がいい仕事の例
  • 営業職
  • コールセンター
  • 危険な道具や機械がある工場

高次脳機能障害のある人におすすめの就労移行支援事業所の選び方

高次脳機能障害のある人が就労移行支援事業所を選ぶときに、ご自身にあった事業所を選ぶポイントについて説明します。

ポイント①通所がしやすい

高次脳機能障害のある人は、公共交通機関の利用に困難がある、身体に麻痺があって階段の昇降が難しい場合があるなど、通所自体が難しいこともあります。

ご自身が無理なく通える範囲にある就労移行支援事業所を探すといいでしょう。

ポイント②障害特性の理解と対応力がある

高次脳機能障害は、人によって症状や困りごとが大きく異なり、外見ではわかりにくい障害です。そういった障害特性をよく理解し、目に見えにくい障害に対してサポートする対応力がある就労移行支援事業所に通うことで、就労に向けて大きく前進します。

就労移行支援事業所を利用する前に見学に行き、スタッフと話しをして、高次脳機能障害のある人の支援がどの程度可能かを確認しましょう。

ポイント③高次脳機能障害のある人の就職実績がある

就労移行支援事業所によって、就職実績が異なります。過去の就職実績を聞き、その中に高次脳機能障害のある人が含まれているかどうかを確認しましょう。

必ずしも実績がすべてではありませんが、高次脳機能障害のある人の支援が充実しているかどうかを判断する指標の1つになるといえるでしょう。

就労移行支援事業所に関するよくある質問

Q1. 高次脳機能障害で障害者手帳を取得できるの?

高次脳機能障害のある人は障害者手帳を取得できる可能性があります。

高次脳機能障害は「器質性精神障害」として精神障害者保健福祉手帳の対象となります。

身体に麻痺がある人は、身体障害者手帳の対象になることもあります。

Q2. 障害者手帳なしでも就労移行支援事業所を利用できる?

就労移行支援事業所を利用する際は、主治医の意見書や自立支援医療受給者証等があれば、障害者手帳を持っていなくてもサービス利用の申請をすることができます。

Q3.就労移行支援と就労継続支援の違いは?

就労移行支援事業所と就労継続支援A型・B型事業所の大きな違いは、利用期間と一般企業等への就職率です。

就労移行支援が一般企業へ就職する人の割合が『56.3%』と一番大きく、反対に就労継続支援B型が一般企業へ就職する人の割合が『10.1%』と小さくなっています。※

また、就労移行支援事業所は利用期間が原則2年間となっていますが、就労継続支援事業所は利用期間に制限がありません。

※参考:厚生労働省 「就労移行支援に係る報酬・基準について」より

Q4.就労移行支援事業所は利用料がかかるの?

就労移行支援事業所の利用者が負担する料金は、1回あたりおよそ500円~1,400円です。ただし、所得に応じてひと月当たりの負担上限金額が決まっているため、自己負担額なしで就労移行支援事業所を利用する人も多いです。

厚生労働省によると、障害福祉サービスを利用している人(98.5万人)のうち、約92.7%が無料で利用していることが分かっています。

区分世帯の収入状況負担上限月額
生活保護生活保護受給世帯0円
低所得市町村民税非課税世帯※10円
一般1市町村民税課税世帯(所得割16万円未満※2)ただし、入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除く※39,300円
一般2上記以外37,200円
(出典:厚生労働省「障害者の利用者負担」により作成)

※1
3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入がおおむね300万円以下の世帯が対象。

※2
収入がおおむね670万円以下の世帯が対象。

※3
入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、「一般2」に該当。

世帯の範囲は、障害のある人とその配偶者となっています。例えば同居している親の収入が700万円あったとしても、世帯収入とみなされるのは本人の収入のみとなります(18歳以上の場合)。ただし、配偶者がいる場合は、配偶者の収入も世帯収入に加えられます。

Q5.高次脳機能障害のある人は障害年金を受給しながら就労移行支援を利用できる?

高次脳機能障害のある人が障害年金を受給するためには、以下の条件を満たしていることが必要です。

  • 障害の原因となった病気やケガの初診日に、原則公的年金に加入していること
  • 初診日から1年6ヶ月経過した時点で、法令によって定められている障害等級表の状態であること
  • 保険料の納付要件を満たしていること

上記の要件を満たし、高次脳機能障害によって日常生活に大きく支障がある場合は受給できる可能性があります。

障害年金を受給しながら就労移行支援事業所を利用することは可能です。

Q6.高次脳機能障害のある人が生活費のために利用できる制度は?

就労移行支援事業所に通所している間は、原則仕事ができません。その間に生活費に困ることがあれば、以下のような制度があります。

  • 自治体の交通費助成制度

一部の自治体では、就労移行支援事業所に通うための交通費を助成する制度があります。

  • 失業保険

会社に勤めていたけど高次脳機能障害が理由で退職した場合は、条件を満たせば失業保険の受給ができます。

  • 傷病手当金

健康保険の被保険者が、高次脳機能障害のために仕事の継続ができなくなった場合は、傷病手当金の受給対象者になる可能性があります。

  • 生活保護

収入も資産もなくて生活に困窮する場合は、生活保護が受けられる可能性があります。

最後に

ここまで、高次脳機能障害のある人が就労移行支援事業所で受けられるサポートや向いている仕事の例、就職までの流れなどについてご紹介してきました。

就労移行支援事業所の検索サイト『デイゴー就労支援ナビ』では、お住まいの地域や駅から就労移行支援事業所を探し、就職実績、職員の専門性などを比較することができますので、ぜひご活用ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事を書いた人

社会福祉士。総合病院で医療ソーシャルワーカーとして8年間勤務した後に、就労移行支援事業所で12年間勤務。サービス管理責任者、生活支援員、職業支援員を担当。就労移行支援事業所では発達障害のある人を中心に約300人の支援に携わってきた。

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