双極性障害(躁うつ病)のある人が就労移行支援を利用して就職するまでの流れは?事例もご紹介

就労移行支援事業所の利用を検討している双極性障害(躁うつ病)のある人の中には、「双極性障害がある場合は就労移行支援を利用できるの?」や「双極性障害がある人は就労移行支援を利用してどんな仕事に就いているんだろう?」と疑問を持っている人もいるかもしれません。

この記事では、双極性障害がある人が就労移行支援を利用して就職するまでの流れや、就職率、実際の就職事例を、元就労移行支援事業所の支援員である筆者がご紹介していきます。

この記事の監修者

メンタルエイド代表。サービス管理責任者、社会福祉士、精神保健福祉士、ジョブコーチ、心理カウンセラー、幼稚園教諭。就労移行・就労定着支援サービスを行う事業所に12年従事。120名の障がい者就労の実績があり、面談は1,000人以上。多くの面談実績からオリジナルの上村式認知整理面談技法を発案。

目次

双極性障害(躁うつ病)の症状

双極性障害は、憂うつで無気力な「うつ状態」と、気分が著しく昂揚した状態が一定期間つづく「躁状態」が交互に繰り返される気分障害です。

うつ状態のときには、気分が晴れない、何をしても楽しいと感じない、食欲がない、過眠、といった症状が見られます。

一方で躁状態のときには、異常な高揚感、過大な自信、過度な攻撃性といった症状があります。双極性障害があることに気づかずに、自分の病気はうつ病だと認識していた人が、「躁状態」で一時的に調子が良くなったことで病気が治ったと思い、双極性障害の症状が悪化してしまったケースも多いです。

(参考:厚生労働省 e-ヘルスネット

双極性障害Ⅰ型とⅡ型の違い

双極性障害にはⅠ型とⅡ型があり、その違いは躁状態のときの状態にあります。

Ⅰ型は、うつ状態に加えて、夜も眠らずに動き回る等社会生活に支障をきたすほどの「完全な躁状態」を経験した場合に診断されます。

Ⅱ型は、うつ状態に加えて、「軽い躁状態」があるものの、完全な躁状態は見られない場合に診断されます。

(参考:国立国際医療研究センター病院

双極性障害(躁うつ病)のある人は就労移行支援を利用できる?

就労移行支援は、障害や難病がある人に対し、就職に向けた訓練プログラムを提供し、就職活動をサポートするサービスです。

就労移行支援の対象者は、以下の条件に当てはまる人ですから、双極性障害のある人も就労移行支援の利用対象となります。

就労移行支援の対象者
  • 一般企業への就職を希望し、訓練などによりそれが見込める人
  • 障害や難病のある人
  • 65歳未満の人
  • 離職中の人(状況によっては休職中の人も利用可能)

就労移行支援事業所を利用できる精神障害・疾患の例

就労移行支援の利用対象となる精神障害の例
  • 統合失調症
  • うつ病、双極性障害(躁うつ病)などの気分障害
  • てんかん
  • 薬物依存症
  • 高次脳機能障害
  • 適応障害
  • 双極性障害、強迫性障害などの不安障害
  • パーソナリティ障害
  • そのほかの精神疾患(ストレス関連障害等)

※精神障害者保健福祉手帳を持っていない場合でも、主治医の意見書等があれば就労移行支援を利用できます。

双極性障害(躁うつ病)のある人が就労移行支援を利用するメリット

双極性障害のある人が就労移行支援事業所を利用すると、以下のようなメリットがあります。

  • 生活リズムが整えられる
  • 気分の波に対する対処法を学べる
  • 仕事のスキルが習得できる
  • 就職活動のサポートが受けられる
  • 就職後も困ったことがあれば相談にのってもらえる

双極性障害(躁うつ病)のある人が就労移行支援を利用して就職するまでの流れ

ここからは、双極性障害(躁うつ病)のある人が就労移行支援を利用して就職するまでの流れを、順をおってご紹介していきます。

ステップ①:基礎訓練

まずは安定して通所することを目標に、生活リズムを整えることから始めます。

双極性障害のある人は生活リズムが崩れやすいため、無理なく通える日数から始め、徐々に通所日数を増やしていくことが重要です。

「躁状態のときには週5日通い、うつ状態のときは週に1日だけ通う」という波のある通所ではなく、少ない日数でも安定して通うことを目指していきます。

このステップでは負荷が少ないプログラムに参加することが多いです。

一例として、アートセラピー、スポーツ、パソコン初級、ライフスキルなどのプログラムがあります。

ステップ②:実践的訓練

安定して通所ができるようになると、就職に向けて実践的な訓練が始まります。

ここでは仕事のスキルだけでなく、気分の変調を早めに察知し、対処するスキルも身につけます。

気分の波を理解して「気分を上げすぎない」「落ち込みすぎない」という対処法が身につくと、働きやすくなります。

このステップでは、模擬就労訓練など実際の仕事の場を想定したプログラムや、自己理解を深めるプログラムに参加する機会が多くなります。

ステップ③:就職準備

仕事のスキルが身につき、気分の波がある程度コントロールできるようになったら、就職活動を本格的に開始します。

就職活動は一般的に求人を探すところから始まります。スタッフと相談しながら自分にあった就職先をみつけましょう。求人が見つかったら、応募書類作成、実習、面接へと進んでいきます。

就職活動は個別サポートになることが多く、それぞれの就職活動のペースに合わせて、就職が決まるまでスタッフが個別に対応していきます。

ステップ④:就職・定着支援

就職が決まったあとも、就職後6ヶ月間は就労移行支援のサポートが続きます。これを職場定着支援といいます。

就職先で困ったことがあれば就労移行支援のスタッフが対応しますので、早めに連絡を入れましょう。

また、事業所によっては、さらに3年間の定着支援を提供しているところもあります。

双極性障害のある人の就職率・就労率は?

双極性障害のある人でも、治療を受けながら仕事を続けることは可能です。

双極性障害のある人が就労している割合は43.5%であったという研究報告もあります。

(産業医科大学 近野 祐介氏ら Relationship Between Mood Episode and Employment Status of Outpatients with Bipolar Disorder: Retrospective Cohort Study from the Multicenter Treatment Survey for Bipolar Disorder in Psychiatric Clinics (MUSUBI) Project

双極性障害のある人に向いている仕事・就職先

双極性障害のある人は、なるべく気分の波が起こりにくい環境で働くことが大切です。一般的に、勤務時間や業務量が一定で、生活リズムが崩れにくい仕事が適していると言われています。

双極性障害のある人に向いている仕事の例
  • 事務補助
  • スーパーのバックヤード
  • データ入力
  • 在宅ワーク

双極性障害のある人は避けた方が良いといわれる仕事・就職先

一方で、双極性障害のある人は、生活リズムが崩れるような仕事や、業務量の増減が激しい仕事は避けた方が良いとされています。

双極性障害のある人が避けた方が良い仕事の例
  • 夜勤がある仕事
  • 接客業
  • 営業
  • 運送業

双極性障害のある人で就労移行事業所を利用して就職した事例

双極性障害のある人が就労移行支援事業所を利用して就職・復職した事例を紹介していきます。

20代女性(双極性障害)の就職事例

就労移行支援に通う前は、表面では謙虚な素振りを見せながらも、心では不満や怒りなどのネガティブな感情が渦巻いていました。 

就労移行支援に通い始めて支援員さんと関わることで、徐々に自分が許せるようになり、それによって不満も怒りもなくなり、支援員さんの助言を素直に受け止められるようになりました。その時期から顕著に成長した実感があります。

私が変われたのは、どんなときでも話を聞いてくださる支援員さんがいて、同じように自分を変えようと戦う仲間がいる環境があったおかげです。今は特例子会社に就職し、一般事務として働くことができています。

30代男性(双極性障害)の就職事例

以前就労していたときに双極性障害と診断され、仕事が続けられなくなりました。気分の浮き沈みに振り回されて何もできない日々。当然就職活動もできずに悩んでいたので、就労移行支援に通うことにしました。

通い始めてまず変わったのは、自力ではどうしても改善できなかった生活リズムです。無理をしない程度の通所を目標とすることによって、意識の面から改善することができました。

また、無職の期間が長くてパソコンスキルが低下していたので、それを向上させる訓練を受けました。

就職活動では、応募書類の書き方など相談できるのが良かったです。自分にあったリズムで無理なく前に進むことができました。

双極性障害のある人におすすめの就労移行支援事業所の選び方

双極性障害のある人が就労移行支援を選ぶ際に、注目すべきポイントを3つ紹介します。

ポイント①自己理解を深めるプログラムが充実している

双極性障害のある人が就職を目指す際、自身の気分の波を把握し、その対処法を身につけることが重要です。

そのため、自己理解を深めるプログラムが充実している事業所を選びましょう。

講義形式で知識を得るだけではなく、自身を見つめ、気づきを深められるような実践的なプログラムがあるかどうかを確認することが大切です。

ポイント②主治医との連携がスムーズである

双極性障害のある人は、通所中もうつ状態と躁状態が繰り返される可能性があります。

特に躁状態のときは自身では気がつかない場合もあるので、就労移行支援のスタッフと主治医が連携し、適切なサポートを提供できる体制があると安心です。

主治医との連携体制やその頻度は事業所ごとに異なりますので、事前に聞いてみましょう。

ポイント③無理なく通える範囲にある

双極性障害のある人は、無理なく通所できる範囲にある事業所を選ぶことが大切です。

特に「うつ状態のとき」でも無理なく通えるかどうかを考慮し、一番調子が悪いときのことを想定して選びましょう。

就労移行支援事業所に関するよくある質問

Q.就労移行支援と就労継続支援の違いは?

就労移行支援事業所と就労継続支援A型・B型事業所の大きな違いは、利用期間と一般企業等への就職率です。

就労移行支援が一般企業へ就職する人の割合が『56.3%』と一番大きく、反対に就労継続支援B型が一般企業へ就職する人の割合が『10.1%』と小さくなっています。※

また、就労移行支援事業所は利用期間が原則2年間となっていますが、就労継続支援事業所は利用期間に制限がありません。

※参考:厚生労働省 「就労移行支援に係る報酬・基準について」より

Q.就労移行支援事業所は利用料がかかるの?

就労移行支援事業所の利用者が負担する料金は、1回あたりおよそ500円〜1,400円です。ただし、所得に応じてひと月当たりの負担上限金額が決まっているため、自己負担額なしで就労移行支援事業所を利用する人も多いです。

厚生労働省によると、障害福祉サービスを利用している人(98.5万人)のうち、約92.7%が無料で利用していることが分かっています。

区分世帯の収入状況負担上限月額
生活保護生活保護受給世帯0円
低所得市町村民税非課税世帯※10円
一般1市町村民税課税世帯(所得割16万円未満※2)ただし、入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除く※39,300円
一般2上記以外37,200円
(出典:厚生労働省「障害者の利用者負担」により作成)

※1
3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入がおおむね300万円以下の世帯が対象。

※2
収入がおおむね670万円以下の世帯が対象。

※3
入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、「一般2」に該当。

世帯の範囲は、障害のある人とその配偶者となっています。例えば同居している親の収入が700万円あったとしても、世帯収入とみなされるのは本人の収入のみとなります(18歳以上の場合)。ただし、配偶者がいる場合は、配偶者の収入も世帯収入に加えられます。

Q.就労移行支援はどのくらいの期間利用できるの?

就労移行支援事業所のサービスを利用できる期間は、原則として最大2年(24ヶ月)までとなっています。

厚生労働省によると、就労移行支援事業所の利用期間は2年以下が93.5%と最多で、このうち就職者の平均利用月数は『15.9ヶ月』となっています。

最後に

ここまで、双極性障害がある人が就労移行支援を利用して就職するまでの流れや、就職率、実際の就職事例を、元就労移行支援事業所の支援員である筆者がご紹介してきました。

就労移行支援事業所の検索サイト『デイゴー就労支援ナビ』では、お住まいの地域や駅から就労移行支援事業所を探し、双極性障害がある人への支援プログラムや就職実績や就職後の定着率などを比較することができますので、ぜひご活用ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事を書いた人

社会福祉士。総合病院で医療ソーシャルワーカーとして8年間勤務した後に、就労移行支援事業所で12年間勤務。サービス管理責任者、生活支援員、職業支援員を担当。就労移行支援事業所では発達障害のある人を中心に約300人の支援に携わってきた。

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