「 就労移行支援を利用したいけど、生活保護も受けたい。両方の制度は利用できないの?」。こんな悩みを持つ人は多いのではないでしょうか。就労移行支援は生活保護を受給しながらでも利用できます。
この記事では、生活保護とはどんな制度なのか、もらえる金額や手続きの流れ、就労移行支援に通いながら生活保護を受給できる人の条件など、気になる疑問を解消していきます。
これから就労移行支援を利用したいと考えている人や、生活保護についてもっと知りたい人は、ぜひ最後までお読みください。
就労移行支援は生活保護を受給しながら利用できる?
就労移行支援とは、障害や難病がある人が、就職に向けて必要な知識やスキルを習得するための障害福祉サービスです。職業訓練や実習を通して、一人ひとりの能力や適性に合った就職や職場への定着を目指しサポートを行います。
就労移行支援を利用している間も、親族などからの支援が受けられない、預貯金などの資産がないなど一定の条件を満たせば生活保護を受給することができます。
また、生活保護を受けている人が就労移行支援に通う場合は、利用料の負担がありませんので、経済的な不安を減らしながらサポートを利用できるでしょう。
なお、就労移行支援の詳細は関連記事でわかりやすくご紹介しています。就労移行支援をもっと知りたい人はぜひご覧ください。
生活保護はどんな制度?
生活保護は、病気や障害、失業など、さまざまな理由で生活に困窮している人に対して、健康で文化的な最低限度の生活を保障することを目的とした制度です。具体的には、食費や住居費、医療費などの支給を受けることができます。
また、生活保護は日本国憲法第25条「すべて国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」という理念に基づき制定された制度なので、生活保護を申請することは国民の権利といえます。経済的に困窮し、生活するのが大変な事態になったときには生活保護の受給を検討しましょう。
なお、生活保護法第59条で明示されているとおり、生活保護を受ける権利を他人に譲り渡すことはできません。
(参考:生活保護制度|厚生労働省、生活保護制度とはどのような制度ですか。|東京都福祉局、生活保護受給者等への就職支援|厚生労働省)
生活保護でもらえる金額はいくら?
生活保護で支給されるお金は「保護費」といい、厚生労働大臣が定める基準で計算される最低生活費と収入を比較して、収入が最低生活費に満たない場合に「最低生活費から収入を差し引いた差額」が支給されます。
【生活保護で支給される金額】
最低生活費ー収入=支給される保護費
下図は、保護費の支給について図解したものです。
なお、最低生活費とは日々暮らしていくのに最低限必要な費用のことで、家族構成や年齢、暮らしている地域により金額が設定されています。
例えば、最低生活費が20万円の世帯の場合、労働などの収入が5万円あったとしたら、保護費は差額の15万円が支給されます。
(参考:生活保護法による保護の基準|厚生労働省)
生活保護はいつ振り込まれる?
生活保護費の支給は毎月ありますが、支給日は自治体により異なります。多くの自治体では月の始めに生活保護費の定例支払日を設定しています。
例えば、大阪府東大阪市では毎月2日、長崎県大村市では毎月5日が生活保護費の定例支払日であると公開しています。支払日が土日・祝日など金融機関の休業日にあたる場合は、前日に支払う自治体もあります。
ご自身の生活保護費の定例支払日の正確な日付が知りたいときは、お住まいの自治体へお問い合わせください。
生活保護はどのくらいの期間もらえる?
結論からお伝えすると、生活保護の受給期間は定められていないので、生活保護が必要な期間は原則としてずっと受けることができます。
ただし、以下のようなケースでは、生活保護の受給が打ち切られることがあります。
- 就労し収入が増えて自立できるようになった
- 資産が増えた
- 虚偽の申告をしたなどの不正が発覚した
- 仕事ができる状態なのに働かない
生活保護の受給期間は、一人ひとりの状況によって異なります。生活保護を受け始めてから働き始めたり、年金などを受け取ったりすることもあるでしょう。意図せず不正受給をしてしまわないように、生活の状況が変わったときや疑問点があるときには、お住まいの市区町村の福祉事務所に相談することをおすすめします。
就労移行支援に通いながら生活保護を受給できる人の条件
就労支援に通いながら生活保護を受けるには、両方の制度を受けられる条件を満たすことが必要です。それぞれの受給要件をみていきましょう。
就労移行支援を利用できる人とは?
就労移行支援を利用できるのは、次の4つの条件をすべて満たす人です。
- 一般就労を希望している
- 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病がある
- 65歳未満である
- 適性に合った職場への就労が見込まれる
なお、就労移行支援を利用できる難病は2024年4月より369疾病が対象とされており、厚生労働省の資料(障害者総合支援法の対象となる難病が追加されます)でご確認いただけます。
就労移行支援の対象者の詳細は、下記の関連記事でわかりやすくご紹介していますのでぜひご覧ください。
生活保護を利用できる人とは?
生活保護を受けるには、次の5つの条件を遵守することが必要です。
- 世帯全員で受けること
- 預貯金、生活に利用していない不動産等を売却し、生活費にあてること
- 働ける人は、能力に応じて働くこと
- 年金や手当などが支給される場合は、そのお金を生活費にあてること
- 親族からの経済的支援があるときは、援助を受けること
生活保護は、上記のように自分自身の資産や能力、その他の制度を最大限活用し、親族からの援助があっても、世帯の収入が最低生活費に届かなかった場合に受けられます。
なお、生活保護は世帯単位で行うものなので「両親だけ生活保護を受けてほしい」など、家族の一員だけを申請することは認められません。ただし、介護のため両親と同居するなど特別な事情がある場合は両親だけ生活保護を受けられることもあるので、該当する人は福祉事務所に相談しましょう。
(参考:生活保護制度|厚生労働省)
生活保護を受給するまでの流れ
生活保護を申請し、受給に至るまでの流れは次のようになります。
順番にみていきましょう。
ステップ①:福祉事務所へ生活保護の相談に行く
生活保護を受けたいときは、お住まいの地域を担当する福祉事務所へ相談に行きましょう。
面談を担当する職員に現在の生活状況や収入、支出などを詳しく説明し、生活保護の申請をしたい旨を伝えましょう。
福祉事務所では、生活保護の制度を説明したり、年金や失業保険などのほかの制度を活用できるかを検討したりします。
ステップ②:申請書を提出する
生活保護が必要な場合は、申請の手続きを行います。
生活保護の申請に必要な書類は次のようなものがあります。
- 直近の給与明細や支払証明書
- 年金や手当に関する書類(年金証書、児童手当認定通知書など)
- 住まいの賃貸借契約書、家賃の領収書
- 健康保険証や介護保健被保険者証
- 生命保険に加入している場合は、証書
- 世帯全員の通帳 など
書類がすべて揃わなくても生活保護の申請ができますが、申請後の調査に必要な場合は後から提出を求められることがあります。
なお、就労移行支援に通う人は以下の点に注意しましょう。
【就労移行支援にこれから通う予定がある場合】
就労移行支援に通う予定であることを忘れずに申告しましょう。
【就労移行支援を利用中の場合】
就労移行支援に現在通っていることを申告します。就労移行支援を利用しながら失業保険を受けていた場合は、その旨も必ず申告しましょう。
ステップ③:生活保護が必要か福祉事務所が調査する
生活保護の申請後は受給できるか審査があり、福祉事務所では以下のようなことを調査します。
- 家庭訪問等での生活状況の調査
- 働ける状態にあるかの調査
- 預貯金や不動産などの資産
- 親族などの援助はあるか など
なお、調査の際には世帯の収入・資産等の状況がわかる資料(通帳の写しや給与明細等)を提出することがあります。
ステップ④:支給の決定
生活保護の申請をした日から原則14日以内に生活保護を受給できるかの回答がありますが、調査に時間がかかる場合は最長で30日かかることもあります。
生活保護の受給中は、収入状況を毎月申告することが必要です。世帯の実態に応じて、1年に数回地区担当者(ケースワーカー)の家庭訪問があり、生活の相談をしたり、自立した生活ができるよう支援を受けたりすることもできます。
(参考:生活保護を申請したい方へ|厚生労働省、生活保護制度|厚生労働省、生活保護に関するQ&A|厚生労働省、生活保護申請時に用意していただきたい書類等|札幌市)
生活保護を受給中にしてはいけないことは?
生活保護を受けているときに制限されることや禁止されていることを3つご紹介します。
①収入をごまかして申告したり、必要な申告をしない
生活保護を受給中は以下のような場合には福祉事務所の申告をしなければなりません。
- 収入が増えたり減ったりしたとき(給与、賞与、年金など)
- 臨時収入があったとき(生命保険給付金、交通事故補償金など)
収入は実際よりも低い額で申告するなどごまかしたりせずに、正確な金額を申告しましょう。なお、高校生がアルバイトをして得たお金や、インターネットのオークションに出品し得た収入も福祉事務所への申告が必要です。また日々暮らしていくなかで、次のようなことがあったときにも申告が必要です。
- 就職や転職、退職するとき
- 住所、家賃が変わったとき
- 家族が増えるなど世帯の状況が変わったとき
- 入院や退院をしたとき
- 交通事故にあったとき
- 仕事中にけがをしたとき
(参考:不正受給にならないために|習志野市健康福祉部生活相談課 )
②生活上の義務を果たさない
生活保護を受けている間は、生活するうえで守らなければならないことがあります。
生活保護は「最低限の生活を保障する」制度で、国民の税金から費用が賄われています。そのため、保護費の使い道は自由ではなく、節約して生活の維持や向上に努めなければなりません。具体的には、以下のようなことに注意しましょう。
- 家賃や学校に納めるお金を滞納してはいけない
- 生活保護をローンの返済等にあてることはできない
- 生活保護を受けるあいだは、借金をすることはできない
また、生活保護を受ける人は次のようなことを守ることが求められます。
- 働ける人は、その能力に応じて働き、無職の人は仕事を探す
- 自動車を持ったり、借りたりして使うことは、原則認められない※
- 病気やけがで働くことができない人は、医者の指示に従って治療に専念する
※ただし、障害のある人の通勤、通院等に必要な場合等には自動車の保有を認められることがあります。詳しくはお住まいの福祉事務所にご相談ください。
③福祉事務所からの指示等に応じない
生活保護を受給中は、福祉事務所からの指示や指導に従わなければなりません。
生活を安定させ、一日も早く自分自身の力で生活できるよう支援するために福祉事務所から指示等をすることがあるので、必ず従いましょう。
なお、理由なく福祉事務所からの指示等に従わないときは、生活保護法第62条の規定により生活保護が受けられなくなることがあります。
(参考:生活保護に関するQ&A|厚生労働省、生活保護受給者の権利と義務について|伊賀市)
生活保護以外で就労移行支援の利用中に活用できる支援制度
就労移行支援に通所中に、生活保護以外で利用できる支援を2つご紹介します。
障害年金
障害年金は、病気やけがによる障害で生活や仕事に支障がある人が利用できる制度で、原則として20〜64歳までの人が申請できます。
障害年金を受給するためには一定期間保険料を納めることや、国が定める障害等級にあてはまるなどの条件をすべて満たす必要があります。障害年金を受けられるかを自分で判断することは難しいので、年金事務所や障害年金専門の社労士へ相談してみましょう。
生活保護と障害年金では、障害年金が優先されて支給となり、障害年金とそのほかの収入を合わせても最低生活費に満たないときに、その差額が保護費として支給となります。つまり、両制度から支給されるとしても、最低生活費を上回ることはありません。
「障害年金を受けても、手元に入る金額が変わらないなら意味がないのでは…」と思う人もいらっしゃるかと思いますが、障害のある人は保護費のほかに、以下の障害者加算がつくケースがあります。
対象者(いずれかに該当する人) | 1級地 | 2級地 | 3級地 | 入院患者・施設利用者 |
---|---|---|---|---|
・身体障害者手帳1~2級の人・障害基礎年金1級の人 | 26,810円 | 24,940円 | 23,060円 | 22,310円 |
・身体障害者手帳3級の人・障害基礎年金2級の人 | 17,870円 | 16,620円 | 15,380円 | 14,870円 |
なお、障害年金はお金の使い道について特に規定がないので、ローンの返済にあてることもできます。
障害年金の詳細は、下記の関連記事でわかりやすくご紹介しています。
失業保険(雇用保険の基本手当)
失業保険は、正式名称を「基本手当」といい、仕事を探す人が経済的な不安をせずに求職活動をするために雇用保険から現金が支給される制度です。
障害のある人は「就職困難者」にあてはまり、失業保険が通常よりも長く支給されます。
【就職困難者】
被保険者であった期間 | |||
1年未満 | 1年以上 | ||
離職時年齢 | 45歳未満 | 150日 | 300日 |
45歳以上65歳未満 | 150日 | 360日 |
失業保険と生活保護を受け取る場合、失業保険が優先して支給されます。失業保険とそのほかの収入を合わせても最低生活費に満たないときは、その差額が保護費として支給されます。
失業保険でもらえる金額や受給の流れは、関連記事で詳しくご紹介してますのでご覧ください。
最後に
生活保護を受給しながら就労移行支援を利用することはできます。
生活保護に抵抗感を持つ人もいるかもしれませんが、憲法で明記されているように「最低限の生活を保障」するための制度なので、生活保護を利用することは国民の権利だといえるでしょう。生活保護の相談は、お住まいの地域を担当する福祉事務所で受け付けています。
就労支援と生活保護を活用し、自立に向けて一歩を踏み出してみてはいかがでしょうか?
この記事が、あなたの一歩を踏み出すきっかけになれば幸いです。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。