就労移行支援を利用して統合失調症の人が就職した事例と就職後の注意点を元支援員が解説

統合失調症があり就職が難しいと感じている方や休職をしている方の中には、「統合失調症があるが、就労移行支援を利用したら就職できるの?」や「統合失調症のある人はどんな仕事をしているの?」といった疑問をお持ちの方もいるかもしれません。

この記事では、統合失調症のある人が就労移行支援を利用して就職した事例や就職・復職する際の注意点、統合失調症のある人に向いている仕事について、元就労移行支援事業所のスタッフである筆者がご紹介していきます。

この記事の監修者

メンタルエイド代表。サービス管理責任者、社会福祉士、精神保健福祉士、ジョブコーチ、心理カウンセラー、幼稚園教諭。就労移行・就労定着支援サービスを行う事業所に12年従事。120名の障がい者就労の実績があり、面談は1,000人以上。多くの面談実績からオリジナルの上村式認知整理面談技法を発案。

目次

統合失調症の人が利用できる就労移行支援とは

統合失調症は、自分の考えや気持ちがまとまりにくい状態が続く精神疾患です。症状として、幻聴や幻覚といった陽性症状、無気力になり喜怒哀楽といった感情が乏しくなる陰性症状があります。100人に1人程度が発症するといわれているので珍しい病気ではありませんが、原因はまだ完全には解明されていません。

就労移行支援事業所は、障害や難病がある人に対して就職や復職を支援する機関で、統合失調症の人も利用することができます。就職のサポートだけではなく、障害や疾患の理解を促すプログラムを実施している事業所も多くあります。

統合失調症の人は疲れやすい傾向があるので、頑張りすぎてしまうと体調を崩す恐れがあり、それが再発につながる可能性も少なくありません。

就労移行支援事業所を利用することで、自身の体調管理について見直すきっかけにもなりますから、「働きたいけど長く働けるかどうか不安」と感じている方は就労移行支援事業所に相談してみてはいかがでしょうか。

統合失調症の人に向いている仕事は?

統合失調症の人は体調に波があり、疲れやすい傾向にあります。そのため、ご自身の体調が一番いい状態を想定したハードな仕事を選ぶと、体調が悪いときに無理を強いることになり、さらに体調を悪化させてしまいます。自分にとって心も体も無理がない仕事を選ぶと、長く続けられるでしょう。

ルーティンワークは統合失調症の人に向いている仕事の1つだといわれています。決まったことを繰り返しやる作業は自分で判断することが比較的少ないので、心の負担を感じずに取り組むことができます。以下にいくつか例を挙げます。

統合失調症の人に向いている仕事の一例
  • 書類の発送作業
  • 郵便物の仕分け作業
  • データ入力
  • 倉庫内のピッキング
  • スーパーのバックヤード(野菜の袋詰めなど)
  • 商品の陳列作業

統合失調症があり働いている人の割合

統合失調症は精神疾患の1つです。令和5年の厚生労働省のデータによると、精神障害のある人で企業に雇用されているのは推定21万5千人です(令和5年6月1日現在)。

企業に雇用されている精神障害のある人のうち、統合失調症の人は2万6,230人で約12%となっています。

出典:令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書(厚生労働省)、平成30年度障害者雇用実態調査結果(厚生労働省)

統合失調症の人はどんな仕事をしている?

厚生労働省のデータによると、統合失調症を含む精神障害のある人が多い職業の上位5つは以下のとおりです。

グラフ, 棒グラフ

自動的に生成された説明
令和5年度障害者雇用実態調査結果報告書(厚生労働省)より作成

事務的職業が選ばれる理由の1つとして、体力面の負担が少ないことが挙げられます。しかし、事務的職業の中にもさまざまな仕事内容がありますので、仕事を選ぶときは詳しい仕事内容まで把握して選びましょう。

統合失調症の人が就職・復職するときに気を付けること

統合失調症の人が就職・復職するときに気を付けたほうがいい3つのポイントについてご説明します。

①定期通院を中断しない

統合失調症の治療で薬を飲んでいる人は多いと思います。適切な服薬管理をして、定期通院することが大切です。

量の調整が難しい薬もありますので、自己判断で薬を中止してしまうのは危険です。「仕事中に眠くなってしまう」など気になる副作用があれば、必ず医師に相談しましょう。

調子がいいときも通院の継続が大切です。自身で「調子がいい」と思っていても、それが陽性症状の場合もあるためです。自身の状態を客観的に判断してもらうために、調子がいいときも悪いときも主治医とのコミュニケーションをとるように心がけるといいでしょう。

②規則正しい生活を送る

統合失調症の人の中には、発症前に比べて疲れやすくなる人が少なくありません。仕事の疲れを翌日以降に残さないために、正しい食事と適切な睡眠時間でしっかりと体力を戻すことが大切です。

真面目な人ほど以前の自分とのギャップに苦しみ、「もっとがんばらなくてはいけない!」と無理をしがちですが、長く仕事を続けるためには無理は禁物です。

起床時間、食事の時間、睡眠時間のルーティンを決めて、なるべくそれを守るように心がけましょう。

③疲労がたまったときにはしっかりと休む

仕事の中でイレギュラーなことが発生したり、人間関係で悩みが出ることもあるでしょう。その積み重ねで心の疲労が蓄積することがあります。

それに気づかず、もしくは気づいていても無理をして働き続けると、体調が一気に悪化する可能性があります。

いつも以上に疲労があると感じたら、上司に相談して可能な範囲で休みをもらうといいでしょう。

また、入社前に自身の特性について知らせておくと、こういった休みの相談をしやすくなりますから、相談しやすい環境を整えておくことも大切です。

統合失調症の人で就労移行を利用して就職・復職した事例

 統合失調症のある人が就労移行支援事業所を利用して就職した事例を紹介していきます。

30代女性の利用者が就職した事例(統合失調症)

通所開始から10ヶ月で企業検索を始め、1年後から就職活動を開始しました。私の場合、就職活動はまず実習から始めました。実習に行くと、企業の担当者の視点でのアドバイスをいただけるのでとても参考になりました。

いくつかの企業の実習に行ってみると、だんだんと仕事をしていたときの感覚を思い出し、障害者雇用なら働きやすいな、と感じることができるようになりました。

最終的には、人事の方の雰囲気の良い会社を選択しました。就労移行支援事業所に通い始めたころは、「すぐに就職しないと!」という焦りが強かったですが、ここまで気長に、心折れることなく就活を終えることができたのは、周りの人のおかげだなと思います。

40代男性の利用者が就職した事例(統合失調症)

統合失調症と診断を受けてからは、精神状態が安定せず、デイケア→B型作業所→A型作業所→就労移行と時間をかけて徐々にステップアップしていました。

体調が安定してくるにつれて「生活保護を抜けて自分の力で生きていきたい!」という希望を持って就労移行の利用を開始しました。

今までは嫌なこと・苦手なことがあると休んでしまったり、時には現場から逃げてしまっていたりしました。就労移行支援事業所でも苦手なPCや利用者同士で嫌なことがありましたが、不思議と逃げ出したりはしませんでした。

理由としては常に職員さんが相談に乗ってくださったことで、しっかりと気持ちを整理することができたからです。

自分自身に自信が持てるようになり、グループワークなどでは進行役を任せていただけるようにもなりました。

就職してからは毎日大変ですががんばっており、入社から2ヶ月して念願の生活保護を抜けて、今では自分で生計を立てています。

これからは資格を取得し、業務の範囲を広げていきたいと思っています。

30代女性の利用者が就職した事例(統合失調症、発達障害)

私は失敗することや人からの評価が気になり、とても不安で回避ばかりしてきました。

人と関わりたいのに自分から避けてしまったり、目の前のことに集中できず余計な疲れになっていました。

就労移行支援事業所に通うようになってからは、取り組みやすい作業訓練や講座プログラムを受けていくうちに、少しずつ自分の意識を変えていくことができました。

スタッフのフォローにより失敗への受け止め方も変わり、自分の課題に向き合えるようになりました。

統合失調症の人におすすめの就労移行支援事業所の選び方

就労移行支援事業所は事業所ごとに特徴があります。多くの就労移行支援事業所は随時見学を受け入れているので、いくつか見学に行って比較検討することで、自分に合った就労移行支援事業所を見つけることができます。統合失調症の人が就労移行支援事業所を選ぶポイントは、以下の5つです。

ポイント①疾病や自分について理解を促すプログラムがある

統合失調症の人は、再発防止が大切です。そのために必要なことが学べるプログラムや個別指導があるといいでしょう。

統合失調症とはどのような疾患なのか、再発しないために気を付けるべきことはなにかということを就職の前にしっかり学んでおくことは大切です。

人によっては、発症前よりも疲れやすかったり考えがまとまりにくかったりと、以前の感覚と違うことに戸惑っているかもしれません。

今の状況をマイナスに捉えすぎず、「体調を崩さないためにできること」を前向きに考えられるようなプログラムやスタッフの声かけがあるのが望ましいです。

ポイント②主治医との連携がとりやすい

先にも挙げたように再発防止が大切なので、医療機関との連携がスムーズにできる就労移行支援事業所だとより安心です。

就職の準備を進めるときには、主治医の見解も大切な判断基準となります。本人、主治医、就労移行支援事業所の三者が足並みをそろえなくてはいけません。

そのため、就労移行支援事業所で受けている支援や就職に向けての取り組みを主治医に適切に伝えることが大切です。

ご自身でうまく主治医に伝えられるのであれば問題ありませんが、うまく伝えられるかどうか不安なときは、就労移行支援事業所のスタッフから主治医に情報提供してもらう方法があります。

情報提供の方法としては、自身の定期診察時に同行する、情報提供書を書く、など就労移行支援事業所ごとに違いますので、事前に確認しておくといいでしょう。

ポイント③希望職種に関するプログラムや就労実績がある

もし希望職種が決まっている場合は、その職種に関するプログラムがあるのか、卒業生で実際に就職した人がいるのか、確認してみましょう。

例えばIT系の職種に進みたいのであればパソコンのプログラムがあったほうがいいですし、IT系の企業に就職した卒業生が多ければ、それだけスタッフも業界の知識があると期待できます。

ホームページなどには情報が載っていない可能性もありますので、見学時にスタッフに聞いてみてください。

ポイント④自宅から通所しやすい場所にある

どれだけプログラムが充実している就労移行支援事業所であっても、自宅から遠すぎるところでは通所自体が苦痛になってしまいます。

通所開始時はまだ体調が安定していない日があるかもしれません。そんなときでも無理せずに通える距離の就労移行支援事業所を選ぶことをお勧めします。

ポイント⑤就職後のサポートが充実している

就職直後は、慣れない会社の中にいるだけでも疲れてしまいます。仕事がうまくできなくて自分を責めてしまうこともあるでしょう。そんなときに適宜相談できる就労移行支援事業所だと安心です。

就職後にできるだけ長くサポートしてもらうことは、長期就労において大切なことです。仕事に慣れた頃に「もっと仕事したい!」と力を入れすぎて体調を崩してしまう人が少なくないからです。

就労移行支援事業所のサポートを受けながら、オーバーワークになっている自分に気がつき、ゆるやかにブレーキを踏むコツを身につけていけるといいでしょう。

就労定着支援サービスを提供している就労移行支援事業所は、就職してから最大3年6ヶ月のサポートを受けることができますのでぜひ参考にしてください。

ポイント⑥在宅・オンラインで訓練を受けることができる

統合失調症の人は疲れやすい傾向があり、頑張りすぎてしまうと体調を崩す恐れがあるため、はじめから週5で就労移行支援事業所に通うのが難しい場合もあるかもしれません。

事業所や市区町村によっては、体調を崩してしまった場合や在宅勤務での就職を目指す場合にオンラインで訓練を受けることができるところもありますから、在宅訓練の有無もぜひ事業所を選ぶ際に確認してみてください。

最後に

ここまで、統合失調症のある人が就労移行支援を利用して就職した事例や就職・復職する際の注意点、向いている仕事について元就労移行支援事業所のスタッフである筆者がご紹介してきましたがいかがでしたか。

就労移行支援事業所の利用期間は2年間と決められています。限られた時間の中で、自身の納得のいく就職や復職を果たすためにも、見学・体験をし、いくつかの事業所を比較してみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事を書いた人

社会福祉士。総合病院で医療ソーシャルワーカーとして8年間勤務した後に、就労移行支援事業所で12年間勤務。サービス管理責任者、生活支援員、職業支援員を担当。就労移行支援事業所では発達障害のある人を中心に約300人の支援に携わってきた。

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