パニック障害があり働くことに不安がある人や、長い間就労していない人の中には、「就労移行支援事業所を利用したら就職できるの?」や「パニック障害のある人は就労移行支援事業所に通えるの?」といった疑問を持っている人もいるかもしれません。
この記事では、就労移行支援事業所の支援員の経験がある筆者が、パニック障害のある人が就労移行支援事業所を利用するメリットや就職するまでの流れ、実際の就職事例などをご紹介していきます。
パニック障害の症状
パニック障害は不安障害の一種で、理由もなく突然激しい不安に襲われて、動悸やめまい、吐き気、息苦しさ、手足のしびれ、感覚まひといった体の症状が出ることがあります。
このような体の異常な反応はパニック発作と呼ばれており、パニック発作によって日常生活に支障が出ている状態のことをパニック障害といいます。
パニック障害のある人は就労移行支援を利用できる?条件は?
就労移行支援事業所とは、障害や難病によって就労が難しい人を対象に、就職に向けて訓練プログラムを提供して就職活動全般を支援するサービスです。
就労移行支援事業所の対象者は幅広く、障害者手帳を持っていなくても主治医の診断書または意見書があれば、多くの場合は対象者として認められます。
- 一般就労を希望している
- 障害・難病がある
- 65歳未満である
- 適性に合った職場への就労等が見込まれる
パニック障害のある人も、障害者手帳、主治医の診断書または意見書があれば利用できる可能性が高いです。
就労移行支援事業所を利用できる精神障害・疾患の例
- 統合失調症
- うつ病、躁うつ病(双極性障害)などの気分障害
- てんかん
- 薬物依存症
- 高次脳機能障害
- 適応障害
- パニック障害、強迫性障害などの不安障害
- パーソナリティ障害
- そのほかの精神疾患(ストレス関連障害等)
※精神障害者保健福祉手帳を持っていない場合でも、主治医の意見書等があれば就労移行支援を利用できます。
パニック障害のある人が就労移行支援事業所を利用するメリット
メリット①少しずつ通所に慣れることができる
パニック障害のある人は、いつパニック発作が起こるかわからないので、通所自体に不安を感じている人が多いと思います。
多くの就労移行支援事業所は、週に1〜2回から通所を開始することが可能です。半日だけ通所することもできるので、通勤ラッシュが苦手な人は、通勤時間帯を避けて午後のプログラムに参加してみるのもいいかもしれません。
焦らず、少しずつ通所日数を増やすことで、安定した通所を目指していきます。
メリット②スタッフと相談しながら就職活動ができる
就労移行支援事業所の中には、心理や福祉を専門としたスタッフが多く在籍しているところもあります。
パニック障害についての知識があるスタッフと相談しながら就職活動ができるのは、安心感につながるでしょう。
就職活動では、職場見学・実習・面接など、緊張する場面がいくつもあります。不安なことはスタッフに相談しながら、一歩一歩進んでいくことができます。
メリット③就職後も相談をすることができる
就労移行支援事業所は、就職後6ヶ月は支援が継続します。就職した喜びも束の間、新たな不安が出てくるかもしれません。就職後も相談できる場所があるのは、長期就労につながる大切なポイントです。
※就職後、最大3年間の就労定着支援サービスを行っている事業所もあります。
パニック障害のある人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れ
パニック障害のある人が、就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れを、4つのステップに分けて説明します。
ステップ①:基礎訓練
まずは、通所の安定を目指します。パニック障害の人は公共交通機関が苦手な人も少なくありません。どのルートで通所するのが一番負担がないのか、必要であればスタッフが相談に応じます。
まずは週に1日でも2日でも、決めた日は休みなく通うことを目標にし、徐々に日数を増やしていきましょう。
この段階では、あまり負荷がかからないプログラムを受講することが多いです。一例として、パソコンプログラム初級、ビジネスマナー、時間管理講座、スポーツプログラムなどが挙げられます。
ステップ②:実践的訓練
勤怠が安定してきたら、就労に向けての訓練に取り組んでいきます。
頑張りすぎて体調を崩してはいけないので、無理なく進められるようにスタッフと話し合って目標を立てながら進めましょう。
就労に向けての訓練では、職業スキルだけではなく、心のコントロール方法も身につけていきます。例えば、パニック発作が起こる前に不安な気持ちに気づき、その不安を軽減させられるような行動が取れることを目指していきます。
このステップでは実践的な職業訓練や、自己理解プログラムなどを受講することが望ましいです。一例として、模擬就労訓練、パソコンプログラム中級、障害・疾病理解、自己理解促進などが挙げられます。
ステップ③:就職準備
訓練内容が身についてきたら、就職活動を進めていきます。就職活動に慣れていない人でも、スタッフが一からサポートしてくれるので安心です。
就職活動は、求人検索・企業見学・応募書類作成・面接、と進んでいくことが多いですが、ペースは人それぞれです。そのため、この段階では個別対応になることが多いです。
就職活動が始まると、個別でキャリアカウンセリング、応募書類の添削、面接練習などを受ける時間が増えていくでしょう。
ステップ④:就職・定着支援
就職後も6ヶ月間は就労移行支援事業所のサポートが続きます。これを職場定着支援といいます。
職場定着支援の期間中は、職場で困りごとがあった場合などにスタッフに相談をすることができますので、悩みごとがあれば、早い段階で就労移行支援事業所に連絡しましょう。
※利用を希望する場合は、就職後、最大3年間の就労定着支援サービスを受けることができる事業所もあります。
パニック障害のある人に向いている仕事・就職先は?
パニック障害のある人は、自身が安心できる環境で働くことが大切です。一方で、厳しいノルマがあったり、プレッシャーを感じたりする仕事は避けたほうがいいでしょう。
パニック障害のある人に向いている仕事の例
- 事務補助
- 軽作業
- 研究職
パニック障害のある人に向いていない仕事の例
- 営業
- 接客
- 重機や大型機械を扱う作業
パニック障害のある人が利用できる就職支援機関
就労移行支援事業所以外に、パニック障害のある人が活用できる就職支援機関について説明します。
①地域若者サポートステーション
地域若者サポートステーションは、働くことに悩みを抱える15〜49歳の人に対して就労の支援をしています。
厚生労働省の委託事業なので全国177ヶ所に拠点があり、原則無料で利用できます。
利用において障害者手帳や診断書などは必要ありません。
個別面談のほか、ビジネスマナー講座やスキルアップ講座など、さまざまな講座を開催しています。
また、履歴書添削や面接練習、職業体験など就職活動において幅広く支援が受けられます。
②障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害のある人の職業生活をサポートする機関です。
厚生労働省の委託事業なので全国337ヶ所に拠点があり、原則無料で利用できます。
原則、障害のある人が対象ですが、障害者手帳を所持していなくても相談をすることができます。パニック障害が理由で就職活動や職業生活に困っていれば、支援の対象になる可能性があります。
支援内容は個別面談がメインで、求人検索、応募書類作成などのサポートが可能です。就職後の定着支援も受けられます。
③わかものハローワーク、わかもの支援コーナー
ハローワークの窓口の1つに、わかものハローワーク(地域によっては、わかもの支援コーナー)があります。
正社員を目指すおおむね35歳未満の人を対象に、担当制による職業相談が受けられます。その他、自己理解、能力開発、応募書類作成、就職後の定着支援まで一貫したサポートが無料で受けられます。
担当制で原則同じ人に相談ができるので、安心して話をすることができます。
パニック障害のある人で就労移行事業所を利用して就職・復職した事例
パニック障害のある人が、就労移行支援事業所を利用して就職した事例を紹介します。
20代の利用者が就職した事例(パニック障害)
パニック障害があることが発覚した後、どうして良いかわからず家に引きこもっていましたが、家族の勧めで就労移行支援事業所へ相談に行き、アットホームな雰囲気に惹かれて利用を開始しました。
就労移行支援を利用することによって、目標を諦めずにプログラマーとして就職し、勤めることができました。就労移行支援事業所は、一歩踏み出すにはちょうど良い場所です。
パニック障害のある人におすすめの就労移行支援事業所の選び方
ポイント①通いやすい場所にある
パニック障害のある人の中には、人混みや公共交通機関が怖いと感じている人もいるでしょう。
遠方の就労移行支援事業所を選んだ場合、通所するだけで心身ともに疲れてしまい、プログラムが受けられなくなってしまうかもしれません。
無理なく通えるように、自身が通いやすい範囲にある就労移行支援事業所を選ぶことをおすすめします。
ポイント②事業所内外のどこかに落ち着ける場所がある
パニック発作が起こったときに、自分の気持ちを落ち着かせられる場所があると安心です。
個室が用意できない就労移行支援事業所もあると思いますが、その場合は給湯室の一角、階段の踊り場、エレベーターホールなど、比較的静かで一人になれる場所があるといいかもしれません。
通いたい就労移行支援事業所が見つかったら利用前に見学に行き、パニック発作が起こったときの対応についてスタッフと相談しながら、落ち着ける場所があるかどうかも確認しましょう。
ポイント③自己理解を促すプログラムがある
パニック障害とうまく付き合っていくために、自身の症状と向き合える時間があるといいでしょう。
就労移行支援事業所によっては、心理系のプログラムに力を入れているところがあります。
自己理解を促すプログラムを受けて理解を深めることで、生きやすさにつながっていきます。
就労移行支援事業所に関するよくある質問
Q1. パニック障害で障害者手帳を取得できるの?
パニック障害で障害者手帳を取得することは可能です。ただし、どのくらい日常生活や社会生活に支障をきたしているかの程度によりますので、自身が対象になりうるかどうかは主治医に相談してみてください。
Q2. 障害者手帳なしでも就労移行支援事業所を利用できる?
就労移行支援事業所を利用する際は、主治医の意見書や自立支援医療受給者証等があれば、障害者手帳を持っていなくてもサービス利用の申請をすることができます。
Q3.就労移行支援と就労継続支援の違いは?
就労移行支援事業所と就労継続支援A型・B型事業所の大きな違いは、利用期間と一般企業等への就職率です。
就労移行支援が一般企業へ就職する人の割合が『56.3%』と一番大きく、反対に就労継続支援B型が一般企業へ就職する人の割合が『10.1%』と小さくなっています。※
また、就労移行支援事業所は利用期間が原則2年間となっていますが、就労継続支援事業所は利用期間に制限がありません。
※参考:厚生労働省 「就労移行支援に係る報酬・基準について」より
Q4.就労移行支援事業所は利用料がかかるの?
就労移行支援事業所の利用者が負担する料金は、1回あたりおよそ500円〜1,400円です。ただし、世帯における所得に応じてひと月当たりの負担上限金額が決まっているため、自己負担額なしで就労移行支援事業所を利用する人も多いです。
厚生労働省によると、障害福祉サービスを利用している人(98.5万人)のうち、約92.7%が無料で利用していることが分かっています。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
---|---|---|
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯※1 | 0円 |
一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満※2)ただし、入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除く※3 | 9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
※1
3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入がおおむね300万円以下の世帯が対象。
※2
収入がおおむね670万円以下の世帯が対象。
※3
入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、「一般2」に該当。
世帯の範囲は、障害のある人とその配偶者となっています。例えば同居している親の収入が700万円あったとしても、世帯収入とみなされるのは本人の収入のみとなります(18歳以上の場合)。ただし、配偶者がいる場合は、配偶者の収入も世帯収入に加えられます。
Q5.パニック障害のある人は障害年金を受給しながら就労移行支援を利用できる?
パニック障害だけでは障害年金の対象にならないことが多いと言われています。
しかし、ほかの精神疾患を併発していて日常生活に大きく支障が出ている場合は、対象になる可能性があります。
障害年金を受給しながら就労移行支援事業所を利用することは問題ありません。
Q6.パニック障害のある人は傷病手当金を受給しながら就労移行支援を利用できる?
傷病手当金が受給できるのは、健康保険の加入者です。パニック障害によって欠勤状態が続き、就労の継続が難しいという医師の判断があった場合は受給の対象になります。
傷病手当金を受給しながら就労移行支援事業所を利用することは問題ありません。
最後に
ここまで、就労移行支援事業所の支援員の経験がある筆者が、パニック障害のある人が就労移行支援事業所を利用するメリットや就職するまでの流れ、実際の就職事例などをご紹介してきましたが、いかがでしたか。
デイゴー就労支援ナビでは、お住いの市区町村や駅から就労移行支援事業所を探し、精神保健福祉士や公認心理士といったスタッフの専門性や就職実績などから事業所を比較することができます。ご自身にあった事業所を選ぶ際にご活用いただけますと幸いです。
最後までお読みいただきありがとうございました。