就労移行支援事業所の利用を検討している人の中には、「就労移行支援を利用したあとの就職先はどんな企業だろう?」や「どんな職種に就いている人が多いの?」と疑問を持っているかもしれません。
この記事では、就労移行支援事業所を卒業したあとの就職先の職種や就職率、就労移行支援を利用して実際に転職・就職した人の事例を、元就労移行支援事業所の支援員である筆者がご紹介していきます。
就労移行支援を卒業後の就職先
就労移行支援とは、障害や難病がある人に対して就職に向けた訓練プログラムを提供し、就職活動をサポートするサービスです。
ここでは、就労移行支援を利用した人の就職先を、職種・業種・雇用形態ごとに解説していきます。
就労移行支援を卒業後の就職先の職種
就労移行支援を含む就労支援サービスを利用して卒業した人は、「事務作業」や「軽作業」といった職種で働いている人が多いです。この理由は、企業の障害者雇用枠の求人に、事務系の職種が比較的多いことが挙げられます。
以下は、参考までに、就労移行支援事業所や就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所等を利用した人の就職先の職種の割合です。
「軽作業」や「事務作業」が半数を占めていますが、「清掃」や「製造」、「販売」といった職種に就職している人もいます。
職種 | 割合 |
---|---|
軽作業 | 27.9% |
事務 | 23.3% |
清掃 | 9.6% |
販売 | 2.9% |
製造 | 8.9% |
介護 | 4.3% |
調理 | 3.3% |
接客 | 4.5% |
その他 | 14.6% |
不明 | 0.7% |
また、障害があり働いている人を対象とした別の調査では、以下のように、事務関係の職種に就いている人が約5割であることが分かっています。
職種 | 割合 |
---|---|
事務関係 | 48.9% |
専門・技術関係 | 18.0% |
運搬・清掃・包装等 | 7.9% |
生産工程 | 6.6% |
管理関係 | 4.2% |
サービス関係 | 3.8% |
販売関係 | 2.5% |
就労移行支援を卒業後の就職先の業種
就労移行支援事業所を卒業後の就職先の業種は様々ですが、障害者雇用枠の特徴として、大企業の求人が多いことが挙げられます。
以下は、参考までに、就労移行支援事業所や就労継続支援A型事業所、就労継続支援B型事業所等を利用した人の就職先の業種の割合です。
「製造業」が最も多く、次いで「卸・小売業」「社会福祉」が続きます。ただし、業種別の求人数は地域によって違うので、これらの数字は地域によって変わることがあります。
業種 | 割合 |
---|---|
製造業 | 23.7% |
卸・小売業 | 11.8% |
社会福祉 | 11.4% |
教育 | 3.8% |
医療 | 3.5% |
サービス業 | 15.0% |
飲食業 | 3.2% |
公務 | 5.6% |
金融業 | 1.4% |
郵便業 | 1.2% |
建設業 | 2.6% |
不動産業 | 0.8% |
宿泊業 | 0 |
水道・電気業 | 1.0% |
その他 | 14.7% |
不明 | 0.2% |
また、障害があり働いている人を対象とした別の調査でも、以下のように、製造業や医療・福祉、サービス業で働いている人の割合が大きいことが分かっています。
業種 | 割合 |
---|---|
製造業 | 13.5% |
医療・福祉 | 13.0% |
サービス業(他に分類されないもの) | 11.6% |
運輸業、郵便業 | 10.8% |
教育、学習支援業 | 8.4% |
建設業 | 7.0% |
卸売業、小売業 | 5.8% |
就労移行支援を卒業後の就職先の雇用形態
就労移行支援を利用して就職する際には、「正社員」だけでなく「正社員以外」の雇用形態で雇用されることも多いです。正社員以外とは、パートタイマー、契約社員、嘱託社員などを指します。
障害者雇用における正社員と正社員以外の割合は以下のとおりです。
障害種別 | 正社員※ | 正社員以外 |
---|---|---|
身体障害 | 59.3% | 40.2% |
知的障害 | 20.3% | 79.6% |
精神障害 | 32.7% | 63.4% |
発達障害 | 36.6% | 61.0% |
※ここでいう正社員は「勤め先で正社員又は正職員などと呼ばれている者」とされています。
障害者雇用やオープン就労で就職する人も多い
一般企業に応募する場合、「障害者雇用」の求人と「一般雇用」の求人の2種類があります。
障害者雇用とは、障害のある人が働きやすいように仕事内容や就業時間において配慮が得られた雇用形態です。障害者雇用の求人に応募する場合は、障害者手帳が必要です。一方で、一般雇用は障害者手帳の有無は問われませんが、配慮を得ることが難しくなります。
以下はハローワークの求人票ですが、
障害者雇用枠の求人票の場合、以下のように「(障)」というマークが入っています。
また、企業に自身の障害を開示して一般雇用されるケースを「オープン就労」、障害を開示せずに一般雇用されるケースを「クローズ就労」と呼ぶことがあります。
障害者職業総合センターのデータによると、障害のある人の応募した求人種別は、障害者雇用が38.3%、オープン就労が14.9%、クローズ就労が12.0%、就労継続支援A型が34.7%です。障害者雇用が最も多いですが、オープン就労やクローズ就労で就職している人もいます。
ただし、クローズ就労は定着率が低く、1年後の定着率は障害者雇用では67.2%、オープン就労は49.9%、クローズ就労は30.8%です。
そのため、就労移行支援ではクローズ就労を積極的に勧めることは少なく、希望があればケースバイケースで対応することが多いです。
就労移行支援の利用者の就職率は?
厚生労働省の2021年のデータによると、就労移行支援を利用した人の一般企業などへの就職率は56.3%でした。
ハローワークにおける障害のある人全体の就職率が42.9%であることを考えると、就労移行支援を利用した人の就職率が比較的高いことがわかります。
就労移行支援を利用して就職・転職した事例
ここからは、就労移行支援を利用して就職・転職した事例を紹介していきます。
就職先:社内総務(20代男性・発達障害・精神障害)
前職で人間関係に苦しんでいたところ、医者から自閉症スペクトラムと診断を受けました。悩んでいたときに就労移行支援のことを知り、就職に向けたプログラムに取り組んでみようと思いました。
就労移行支援では資格を取得することができました。その後、支援員の方の協力もあり公務員試験に合格。 就労移行支援に通うことで、自分自身も成長したと感じています。
就職後も定着支援として悩みを相談でき、今後も安心して働いていけそうです。
就職先:人事総務(20代女性・精神障害)
大学を卒業後、職場になじめずに仕事を転々としていました。そのような状態で精神的に崩れてしまい、メンタルクリニックに通い始めました。ネットで「仕事が続かない理由」を調べる中で知ったのが就労移行支援です。見学・体験をして利用を決めました。
通い始めてからは、周りと比べてしまい勝手に落ち込む日々。支援員さんと面談を重ねていく中で、自分自身の強みに着目できるようになり、相手の良いところに目がいくようになりました。
就職後は、人事部で動画の編集や採用活動に向けた資料づくりに携わっています。また、イベント補助など今まで経験したことがない仕事にも関わっています。大変なときもありますが、元々趣味で動画の編集をやっていたので、仕事は楽しいです。
休みが固定のため、プライベート・仕事ともに充実した毎日を過ごしています。 今後は正社員雇用として働くことが目標です。
就職先:Webデザイナー(20代女性・精神障害)
どこの職場にいっても『自分の居場所がない』と感じて、居心地の悪さに心を痛めては退職するといったことを繰り返していました。一般就労に限界を感じて自分を見直すきっかけが欲しいと思っていたところ、就労移行支援を知りました。
就労移行支援で「職場は友達をつくる場所ではない」ということを教えてもらったことが、今の自分につながっています。人と適度な距離感を保ちながら接することで、居場所をつくれるようになりました。
現在は、個人事業主としてWebデザイナーの仕事をしています。今後も人との距離感を意識しながら、職場だけでなく、プライベートでも人間関係を築いていきたいです。
都道府県別!就職実績のある就労移行支援事業所の一覧
都道府県ごとに就職実績のある就労移行支援事業所をまとめていますので、こちらも合わせてご覧ください。
- 東京都で就職実績のある就労移行支援事業所
- 神奈川県で就職実績のある就労移行支援事業所
- 埼玉県で就職実績のある就労移行支援事業所
- 千葉県で就職実績のある就労移行支援事業所
- 大阪府で就職実績のある就労移行支援事業所
適性に合った就職先に就職するための就労移行支援の探し方
自分に合った就労移行支援を選ぶことで、適性に合った就職先を見つけやすくなります。ここでは、就労移行支援を選ぶ際に注目すべき3つのポイントを紹介します。
ポイント①プログラムの内容
就労移行支援では就職に向けて様々なプログラムを提供しています。
興味を引くプログラムがあるかどうかも重要ですが、事業所が提供しているプログラム全般に目を向けることが大切です。
特に、自身の特性を知ることは適職を見つける手がかりとなるため、自己理解を深めるプログラムがあるかを確認しましょう。
ポイント②職業評価の方法
どのような仕事や作業が向いているのかを客観的に判断してもらうことは、適職を見つけるために重要です。
就労移行支援では、プログラムや個別面談を通じて職業評価(どのような職業が向いているのか判断すること)を行いますが、その方法は事業所によって異なります。
職業評価の方法や、フィードバックの仕方を事前に確認しておくと安心です。
ポイント③自身の興味がある業界における就職実績
もし就職したい業界が決まっている場合、その業界への就職実績を確認することも大切です。
卒業生がその業界に多く就職している場合は、業界に就職するために必要なノウハウが蓄積しているといえるでしょう。
就労移行支援に関するよくある質問
就労移行支援は就職先を紹介してくれるの?
就労移行支援はハローワークのように就職先のあっせんはしません。
就労移行支援には就職に関する情報やノウハウがたくさんあるので、それらをもとに就職の準備や就職活動のサポートをします。
就労移行支援は県外での就職を目指す場合も利用できるの?
県外での就職を目指す場合でも、障害福祉サービス受給者証があれば、就労移行支援の利用は可能です。
しかし、事業所ごとによって判断が違いますので、事前に事業所に相談してみましょう。。
就労移行支援は就労継続支援A/B型と何が違うの?
就労移行支援は一般企業への就職を目指して、原則2年間という期間限定で就職活動の支援をする制度です。賃金や工賃は発生しません。
一方で、就労継続支援は一般企業への就職が難しい人に対して働く機会を提供し、作業に対して賃金や工賃を支払う制度です。利用期間の定めはありません。
就労移行支援に通いながらバイトはできるの?
就労移行支援に通いながら働くことは、原則はできません。しかし、状況によっては認められることもあります。
最終的な判断はお住まいの市区町村になりますので、事前に相談しましょう。
最後に
ここまで、就労移行支援事業所を卒業したあとの就職先の職種や就職率、就労移行支援を利用して実際に転職・就職した人の事例を、元就労移行支援事業所の支援員である筆者がご紹介してきました。
就労移行支援事業所の検索サイト『デイゴー就労支援ナビ』では、お住まいの地域や駅から就労移行支援事業所を探し、就職実績や就職後の定着率、プログラム内容などを比較することができますので、ぜひご活用ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。