就労移行支援に通いながら障害年金をもらえるの?社労士が受給の流れを解説

就労移行支援は、障害のある人にとって、安定した就職に向けてサポートしてくれる心強い存在です。しかし、「就労移行支援に通っているから、障害年金はもらえないのでは?」と不安に思っている人も多いのではないでしょうか?

この記事では、社会保険労務士である筆者が、就労移行支援と障害年金の関係について詳しく解説していきます。

障害年金の受給の流れや、就労移行支援に通うための支援制度についてもご紹介していきますので、就労移行支援に通う間の生活費に不安のある人は、ぜひ参考にしてください。

目次

就労移行支援に通いながら障害年金をもらえるの?

結論からお伝えすると、就労移行支援事業所に通いながら障害年金を受給することはできます。障害年金を受け取るためには、障害の原因となった病気やけがの初診日に年金制度に加入していることや、保険料を一定期間納めていることなどの条件を満たすことが必要です。

しかし、こうした条件の中に「就労移行支援に通わないこと」という項目はありませんから、就労移行支援事業所を利用している間も障害年金を受け取ることができます。

障害年金の受給条件は、のちほど詳しくご紹介していきます。

(参考:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構

障害年金を受給しながら就労移行支援に通える人の条件

障害年金を受給しながら就労移行支援事業所に通うには、「就労移行支援を利用できる条件」と「障害年金が受けられる条件」の両方を満たすことが必要です。

それぞれの制度の受給条件をみていきましょう。

就労移行支援を利用できる人とは?

就労移行支援を利用できるのは、以下の4つの条件を満たす人です。

就労移行支援を利用できる条件
  • 一般就労を希望している
  • 身体障害、知的障害、精神障害、発達障害、難病がある
  • 65歳未満である
  • 適性に合った職場への就労が見込まれる

就労移行支援を利用できる難病は、関節リウマチや筋ジストロフィーなど369疾病が対象とされており、厚生労働省の資料(障害者総合支援法の対象となる難病が追加されます)でご覧いただけます(2024年4月1日より適用)。

なお、休職中の人でも、一定の条件を満たされた場合は就労移行支援を利用できます。

休職中の人が就労移行支援を利用できる条件
  • 休職している人が勤める会社や地域の就労支援機関、医療機関での復職支援の実施がない
  • 休職している人が復職を希望していて、会社や主治医が復職支援を受けることを適切と判断してる
  • 市町村が、休職している人が就労移行支援を利用できれば復職に効果があると判断している

休職中での利用条件についての詳細は、お住まいの市区町村役所へお問い合わせください。

就労移行支援についてもっと知りたい人は、以下の関連記事でわかりやすく解説していますのでぜひご覧ください。

(参考:障害者総合支援法|e-gov 法令検索

障害年金を受給できる人とは?

障害年金を受給できるのは、次の3つの受給要件をすべて満たす人です。

障害年金を受給できる条件
  • 初診日に国民年金か厚生年金の被保険者であること(初診日要件)
  • 初診日の前日時点で保険料を一定期間納付していること(保険料納付要件)
  • 障害認定日において、国が定める認定基準に該当すること(障害程度要件)

それぞれの条件について、順番に見ていきましょう。

障害年金の受給要件①:初診日要件

障害年金を受けるには、初診日に国民年金か厚生年金に加入していることが必要です。

初診日は、障害の原因となった傷病で初めて医療機関で診療を受けた日のことを指します。

例えば、頭痛と不眠で内科を受診し、改善しなかったのでメンタルクリニックに転院したところ、うつ病だったと診断された場合は、「内科を受診した日が初診日」となります。

なお、初診日に国民年金に加入していた人は「障害基礎年金」、厚生年金に加入していた人は「障害厚生年金」と「障害基礎年金」を受給可能です。

初診日と障害年金の関係を下表にまとめました。

初診日に加入していた年金障害年金の種類障害の等級など
国民年金障害基礎年金1級、2級
厚生年金障害厚生年金1級、2級、3級障害手当金※

※障害手当金とは、初診日から5年以内に病気やけがが治り、障害厚生年金を受けるよりも軽い障害が残ったときに支給される一時金のことです。

(参考:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構

障害年金の受給要件②:保険料納付要件

保険料納付要件は、次のいずれかを満たすことが必要です。

  • 初診日のある月の前々月までの公的年金の加入期間の3分の2以上の期間について、保険料が納付または免除されていること
  • 初診日が令和8年3月31日より前の場合は、初診日において65歳未満であり、初診日のある月の前々月までの直近1年間に保険料の未納がないこと

ご自分が保険料納付要件を満たすかを判断する際には、一般的にはまず初診日の前々月の直近1年間に保険料の未納がないかを確認します。

未納があった場合は、公的年金の加入期間全体の保険料の納付状況をみてみましょう。

年金の納付記録は、年金事務所や街角の年金相談センターで確認できます。

(参考:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構街角の年金相談センター一覧|全国社会保険労務士会連合会

障害年金の受給要件③:障害程度要件

障害年金を受給できるのは「障害認定日」に「障害の状態が国の定める基準にある」人です。

障害認定日とは、「初診日から1年6ヶ月を経過した日」または「1年6ヶ月以内にその病気やけがが治った場合(症状が固定した場合)はその日」のことです。

ここでいう「治った」とは、症状が固定してこれ以上治療しても改善は期待できない状態を指します。

障害の状態が国の定める基準は、国民年金・厚生年金保険 障害認定基準に詳しく記載されていますが、障害年金が受給できるかの判断は自分では難しいことが多いので、年金事務所等に相談してみるのがおすすめです。

障害年金を受給する流れ

障害年金を受給する流れは、以下のとおりです。

ここからは、それぞれのステップについて詳しくご紹介していきます。

ステップ①:初診日を確認して、年金事務所や役所等で相談する

障害年金の請求には、初診日の証明が欠かせません

年金事務所や市区町村、街角の年金相談センターに障害年金の相談に訪れる際は、初診日がわかるものを忘れずに持って行きましょう。

初診日の証明に役立つものとしては、次のようなものがあります。

  • 病院や薬局の領収証
  • 診察券
  • 初診当時のおくすり手帳
  • 初診当時に処方された薬剤の入っていた袋
  • 初診当時の日記や家計簿などの記録 
    など   

年金相談の際には、相談員からこれまでの病歴や通院歴なども詳しく聞かれます。

特に転院が多い場合は、その場ですぐには思い出せないこともあるので、事前にこれまでの通院歴をメモするなどしてまとめておくとスムーズに相談できるでしょう。

(参考:障害年金の初診日証明書類のご案内|日本年金機構街角の年金相談センター一覧|全国社会保険労務士会連合会

ステップ②:診断書や病歴・就労状況申立書などの必要書類を準備する

年金事務所等での相談のあとは、障害年金を受給するために必要な書類を準備しましょう。

障害年金を受給するために必要となる主な書類
  • 年金請求書
  • 診断書
  • 病歴・就労状況等申立書
  • 年金手帳や基礎年金番号通知書など基礎年金番号がわかるもの
  • 年金を受け取る通帳
  • 戸籍謄本、戸籍抄本、戸籍の記載事項証明、住民票、住民票の記載事項証明書のいずれか
  • 受診状況等証明書
    など

年金事務所等で相談すると、年金請求書に添付しなければならない書類についても個別に教えてもらえます。

診断書は主治医が作成しますが、病歴・就労状況等申立書は基本的には自分で作成するものです。

病歴・就労状況等申立書は障害年金の重要書類のひとつで、これまでの病歴や通院歴のほかに、日常生活や仕事での困りごとやまわりのサポートの内容などを記載します。

(出典:病歴・就労状況等申立書(表面)|日本年金機構)

ふだん書類を作成していない人が、年金の審査をする人に「自分の状態が正確に伝わるように書類を作成する」ことはとても難しく、障害年金の請求は簡単なことではないといえるでしょう。

なお、障害年金の書類作成が難しいと感じるときには、障害年金専門の社労士に相談することもできるほか、障害年金の受給手続きをサポートしてくれる就労移行支援事業所もあります。

ご自身やご家族だけで書類を準備できないときは、専門家の力を借りることも視野に入れましょう。

ステップ③:年金事務所等に障害年金の請求書を必要書類を添付し、提出する

障害年金の請求書と必要書類が準備できたら、年金事務所等に提出します。

障害年金の種類により、下表のように提出先が変わります。

初診日に加入していた年金書類の提出先
国民年金お住まいの市区町村役所
※ 初診日が国民年金第3号被保険者の場合年金事務所または街角の年金相談センター
厚生年金年金事務所または街角の年金相談センター
(参考:障害年金ガイド|日本年金機構

申請から審査が終わるまでは3ヶ月ほど、年金の振込みが始まるまでにはさらに1ヶ月ほどを要します。

就労移行支援に通いながら障害年金を受給している人の事例

ここでは、実際に就労移行支援を利用しながら、障害年金を受給できた事例をご紹介します。

ADHDで障害基礎年金2級を受給

  • ご相談者:40代 女性
  • 認定結果:障害基礎年金2級
  • 支給額:年間約130万円+遡及分約500万円

ご相談者様の状況

幼少期から発達障害の傾向が見られ、就職をしても短期間での転職を繰り返したのち、現在は就労移行支援事業所に通所中です。

発達障害の特性からなかなか就職につながらず、焦りを感じる日々を送っています。

部屋の掃除や金銭管理も苦手で日常生活への影響も出ていました。

相談から請求まで

社労士がご相談者さまへヒアリングしたところわかったのは、以下のようなことです。

  • 洗濯や掃除が苦手で部屋が片づけられず、週に2回訪問介護サービスを利用している
  • 金銭管理が出来ず、家計の管理は全て同居の夫が行っている
  • 注意力散漫で運転中に2回事故を起こし、その後車を売却している

日常生活全般において同居の夫や訪問介護サービスによるサポートを受けており、単身での生活が困難であることを主治医にお知らせし、診断書に反映していただきました。

審査の結果

審査の結果、障害基礎年金2級(約130万円)+遡及分(約500万円)が認められました。

「3人の小さな子どもを抱えて金銭的な不安がありましたが、障害年金の受給が決まって心身ともに安定しました」とのお言葉をいただきました。

障害年金以外に就労移行支援に通うための支援制度はあるの?

障害年金以外で就労移行支援に通う期間を経済的に支える制度を2つご紹介します。

傷病手当金

傷病手当金は、健康保険の被保険者が療養のために仕事を休み、十分な給与が得られないときに請求できる制度です。

傷病手当金の概要は以下のようになります。

支給額おおよそ給与の3分の2
支給開始の時期連続して休んだ3日間を含み、4日目から支給
支給される期間支給開始から通算して1年6ヶ月
医師の証明必要

また、退職後も下記の条件を満たしていれば、傷病手当金を受け取ることができます。

退職後に傷病手当金を受け取ることができる条件
  • 退職日までに継続して1年以上の被保険者期間があること(任意継続被保険者の期間は除く)
  • 傷病手当金を受けているか、または受ける条件を満たしている

退職日に出勤した場合は退職日の翌日から傷病手当金は受け取れません。

なお、障害年金と傷病手当金を同一の傷病で受け取る場合は、障害年金が優先されます。傷病手当金は、減額になったり、支給停止になったりするので、両制度から満額支給されることはありません。

(参考:病気やケガで会社を休んだとき(傷病手当金)|全国健康保険協会傷病手当金について|全国健康保険協会傷病手当金と老齢年金等の併給について|全国健康保険協会宮崎支部

失業保険(雇用保険の基本手当)

失業保険は、正式名称を「基本手当」といい、再就職を目指す求職者の失業中の生活の安定のために雇用保険から支給されるものです。

失業保険の給付日数は、離職理由、年齢、被保険者であった期間および就職困難者かどうかによって決まります。障害のある人は「就職困難者」にあてはまるため、失業保険が通常よりも長い期間支給されます。

具体的には、雇用保険の加入期間により異なりますが、45歳未満の人は150日〜300日、45歳以上の人は150日〜360日分の支給が受けられる可能性があります。

被保険者であった期間
1年未満1年以上
離職時年齢45歳未満150日300日
45歳以上65歳未満150日360日

なお、障害年金を受け取っている人でも失業保険とは併給調整されることはなく、障害年金と失業保険をダブルで満額受け取ることができます

(参考:基本手当の所定給付日数|ハローワークインターネットサービス

最後に

就労移行支援は、障害のある人にとって就職に向けてサポートしてくれる心強い存在です。障害年金は、就労移行支援を利用中でも受けることができます。

障害年金のほかにも、傷病手当金や失業保険などを受け取ることもできますから、就労移行支援の期間中の生活費に不安があるときは、障害年金や傷病手当金などの請求を検討してみてはいかがでしょうか。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事を書いた人

社会保険労務士。社会保険労務士法人ゆうき事務所代表。2012年に大学卒業後、行政機関にて障害・介護部門に配属。1,000名を超える障害がある方・高齢者をサポート。その後、社会保険労務士事務所を独立開業し、障害年金特化の社労士事務所として活動している。https://sr-yuuki.com/

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