仕事が長く続かない人や、HSPの傾向にあるかもしれないと考えている人の中には、「HSPの人は就労移行支援を利用できるの?」や「HSPの特性があるが、どんな仕事が向いているんだろう?」と悩んでいる人もいるかもしれません。
この記事では、そのような皆さんに向けて、HSPの特性がある人が就労移行支援事業所を利用する条件や、利用するメリット、HSPの傾向にある人に向いていると言われる仕事について、就労移行支援事業所の元支援員である筆者がご紹介していきます。
HSP(ハイリー・センシティブ・パーソン)とは
HSPとは、Highly Sensitive Person(ハイリー・センシティブ・パーソン)の略です。非常に感受性が高いために、外部からの刺激を受けやすい繊細な特性のある人のことをいいます。
HSPの人は人口の15〜20%程度といわれており、繊細ゆえに、人間関係や社会生活で悩むことも少なくありません。
HSPは病気や障害なの?
HSPは、生まれ持った脳の性質が影響しています。病気や障害とは違い、生まれつきの性格や特性といわれています。
HSPの特性
HSPを提唱したアメリカの心理学者であるエイレン・N・アーロン博士は、HSPの特性を以下のように挙げています。
考え方が複雑で、深い
物事を考えるときに、いろんな場面を想定して慎重かつ多面的に考える傾向があります。1つのことを聞いて10のことを想像できるあまり、考えすぎて動き出せないこともあります。
外界からの刺激に敏感で、疲れやすい
外部からの刺激に敏感ゆえに、人混みの中にいると周囲の音や動きを敏感に察知してしまい、とても疲れてしまいます。
また、人から言われた何気ない一言を過剰に気にしてしまい、それがストレスになることもあります。
共感性が高い
人の感情を敏感に受け取る傾向にあります。
家族や友人の喜びを我がことのように喜んだり、人が怒られていると自分が怒られているように感じたりすることがあります。
感覚がするどい
音、光、匂い、触感、などの刺激に敏感に反応する傾向があります。だからこそ、人の表情や声の調子でささいな変化にも気づきやすいという特徴もあります。
HSPの人は就労移行支援を利用できるの?条件は?
就労移行支援事業所は、障害などが理由で就労が困難な人に対して、働くための準備や就職活動の支援をするサービスです。
- 一般就労を希望している
- 障害・難病がある
- 65歳未満である
- 適性に合った職場への就労等が見込まれる
利用条件になっている「障害」は幅広く捉えられているため、主治医の診断書等があればHSPの人でも就労移行支援事業所を利用できる可能性があります。
例えば、主治医が「就労移行支援事業所の利用が適切である」と判断し、それを市区町村が認めた場合、就労移行支援を利用可能となることがあります。
障害者手帳がなくても就労移行支援に通える?
就労移行支援は、障害者手帳がなくても利用できる可能性が高いです。先に説明したように、主治医の診断書または意見書があれば、就労移行支援事業所の利用が認められるケースがあります。
HSPの人が就労移行支援事業所を利用するメリット
メリット①安心できる環境で訓練ができる
就労移行支援事業所には、障害や福祉に詳しいスタッフが在籍しています。
HSPの特性を理解したスタッフも多いので、相談しながら無理のない範囲で就労に向けて訓練を進めていけるでしょう。
また、仕事の「訓練の場」なので、失敗をとがめられることはほとんどありません。失敗は当たり前で、むしろ気づきのために大切なことと捉えますので、そういった面でも安心できる環境です。
メリット②自己理解を深めることができる
就労移行支援事業所によっては、自己理解を深めるプログラムを提供しているところもあります。
HSPは生まれ持った性質なので治ることはありませんが、うまく付き合っていく方法を身につけることで生きづらさが軽減していきます。
自己理解のプログラムで、自身が何にストレスを感じやすく、そのときにどのように対処したらいいのかを知ることは、HSPの人にとって有益です。
メリット③段階的に働くための準備ができる
就労移行支援事業所は、段階的に就労準備を進めていきます。HSPの人は環境の変化が負担になるため、通所日数を少しずつ増やしていきたいと思われる人も多いのではないでしょうか。
就労移行支援事業所は、少ない通所日数から始めることができるところもあります。また、就職活動は個人のペースに合わせてサポートしていきますので、無理なく就労につなげることができます。
HSPの人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れ
ここからは、HSPの人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れをご紹介していきます。
ステップ①:基礎訓練
まずは、生活リズムの安定と通所に慣れることです。もし昼夜逆転しているのであれば、朝決まった時間に起き、身なりを整えて家を出るところから始めましょう。
HSPの人は人と会うのが怖い、集団に溶け込めない、という悩みを持っていることがあります。
通所はできるけど集団の中にいるのがつらい場合は、スタッフと話し合いながら、徐々に慣れていけるような目標を立てていきましょう。
ステップ②:実践的訓練
就労移行支援事業所への通所に慣れてきたら、自己理解と仕事のスキルを身につけていきます。
自己理解とは、どのような場面で生きづらさを感じるのかを理解し、それに対してなるべく具体的な対処法を身につけることです。
例えば、音に敏感で集団の中では集中しづらいのであれば、耳栓やノイズキャンセリングイヤホンを使うことは具体的な対処法の1つといえます。
自身の課題に対する対処法が多いほど、働きやすさにつながります。
仕事のスキルとは、パソコンスキルといった実務的なスキルだけではなく、コミュニケーション能力といった広い意味でのスキルも含みます。
できる範囲でプログラムに参加しながら、仕事で必要なスキルを身につけていきましょう。
ステップ③:就職準備
訓練によって仕事に必要な自己理解とスキルが身についたら、自分に合った職場を見つけて応募していきます。
しかし、その一歩が踏み出せないこともあるかもしれません。そんなときはスタッフに相談しましょう。
自分に合った職場がわからない、応募書類作成で困っている、ということがあれば、スタッフがサポートします。
就労移行支援事業所では、書類の添削や面接練習など、スタッフと一緒に就職活動を進められるので安心感があります。
ステップ④:就職・定着支援
就労移行支援事業所は、就職後も原則6ヶ月間は支援が継続します。また、事業所によっては最大3年間の定着支援サービスを行っているところもあります。
就職した後に「上司に言われた言葉で落ち込んでいる」、「仕事内容が難しくてミスしてしまう」という困りごとがあれば、早めに就労移行支援事業所に連絡しましょう。
スタッフが相談に応じ、問題を解決して仕事が継続できるように一緒に考えます。
HSPの人に向いている仕事・就職先は?
HSPの人は繊細だからこそ細かい変化に気がつきやすく、それが強みになります。ご自身の苦手な環境は避けながら、強みを活かせる職場を見つけていきましょう。
HSPの人が向いているといわれる仕事の例
- 検査や検品
- エンジニア
- Webデザイナー
- 学芸員
- カウンセラー
HSPの人が避けたほうがいいといわれる仕事の例
一方、正確性よりもスピードが求められるものや、数字に追われる仕事はHSPの人にとってつらいと感じることが多いでしょう。
- 営業職
- 飲食店のキッチン
- 販売業
- コールセンター
- 現場仕事
HSPの人が利用できる就職支援機関
ここからは、就労移行支援事業所以外で、HSPの人が利用できる支援機関について説明します。
- わかものハローワーク・わかもの支援コーナー
- 地域若者サポートステーション
- ジョブカフェ
①わかものハローワーク・わかもの支援コーナー
わかものハローワーク・わかもの支援コーナーとは、ハローワークの取り組みの1つです。正社員を目指すおおむね35歳未満の人を対象に、担当制による職業相談を行っています。
担当制なので、HSPの人でも相談しやすいでしょう。
サポートが受けられるのは求職活動だけではありません。自己理解、仕事の能力開発、応募書類の添削、就職後の定着支援まで一貫してサポートが受けられます。利用料金は無料です。
②地域若者サポートステーション
地域若者サポートステーションは、厚生労働省の委託事業で全国177ヶ所に拠点があり、働くことに悩みを抱える15〜49歳までの人に対して就労の支援を行っています。
利用において障害者手帳や医師の診断書などは必要ありません。
個別面談のほか、ビジネスマナー講座、履歴書添削、面接練習、職業体験など、就職活動において幅広く支援が受けられます。利用料金は原則無料です。
③ジョブカフェ
ジョブカフェは、46の都道府県に設置されている若者の就職支援を行う施設で、利用料は無料です。ハローワークと併設されていることもあり、都道府県によっては「ヤングキャリアセンター」など名称が異なることもあります。
就職セミナーや職場体験、キャリアカウンセリングなど、就職に関する様々な困りごとに対してワンストップでサポートします。
④障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、障害のある人の職業生活をサポートする機関で、全国に337ヶ所設置されています(2024年4月時点)。これから仕事を始める、または仕事を継続するにあたって困っている人の「仕事面」と「生活面」の相談に応じます。
ここで受けられる支援は無料の個別面談が中心です。原則、障害者手帳を持っている人が対象ですが、診断名がなくても就業生活に困っていることがあれば利用できる可能性があります。全国に設置されているので、お近くの障害者就業・生活支援センターに相談してみましょう。
HSPの人におすすめの就労移行支援事業所の選び方
HSPの人が就労移行支援事業所を選ぶときには、自身に合った事業所を選ぶことが大切です。
選ぶときには、以下の3つのポイントを参考にしてみてください。
ポイント①静かで落ち着いた環境
HSPの人は、周囲の音や動きに敏感な人が多いので、静かな環境であることは大切なポイントです。
集団プログラムもあるので完全に静かな環境を求めるのは難しいですが、例えば個人作業の時間は静かに作業に取り組める環境があるといいでしょう。※
また、事業所内の広さも大切です。狭くて人との距離が近いと、集中してプログラムが受けられない可能性があります。
※事業所によっては完全個別支援を行っているところもあります。
ポイント②自己理解を深めるプログラムが充実している
どんな仕事でも、多かれ少なかれストレスが生じます。HSPの人は特にストレスを感じやすい人が多いので、安定して仕事を続けるためには、ストレスの対処法を身につけられるといいでしょう。
就労移行支援事業所では、自己理解を深めるプログラムに重点を置いている事業所もあります。自己理解プログラムに参加して、ストレスに負けない対処法を1つでも多く見つけることをおすすめします。
ポイント③就職後の定着支援が充実している
就職はゴールではなく、新しい生活のスタートです。HSPの人は環境の変化に弱い人が多いので、就職後に悩みを抱える人が少なくありません。
職場に適応するまでに時間がかかる場合も想定されます。就労後、どれぐらいの期間、どのようなサポートが受けられるかを就労移行支援事業所に事前に確認しておきましょう。
就労移行支援事業所に関するよくある質問
Q1. HSPの人は障害者手帳を取得できるの?
HSPは病気や障害ではないので、障害者手帳の取得はできません。
HSPが要因で、うつ病など他の精神疾患になった場合は、その精神疾患で障害者手帳が取得できる場合はあります。
Q2.就労移行支援と就労継続支援の違いは?
就労移行支援事業所と就労継続支援A型・B型事業所の大きな違いは、利用期間と一般企業等への就職率です。
就労移行支援が一般企業へ就職する人の割合が『56.3%』と一番大きく、反対に就労継続支援B型が一般企業へ就職する人の割合が『10.1%』と小さくなっています。※
また、就労移行支援事業所は利用期間が原則2年間となっていますが、就労移行支援事業所は利用期間に制限がありません。
※参考:厚生労働省 「就労移行支援に係る報酬・基準について」より
Q3.就労移行支援事業所は利用料がかかるの?
就労移行支援事業所の利用者が負担する料金は、1回あたりおよそ500円〜1,400円です。ただし、所得に応じてひと月あたりの負担上限金額が決まっているため、自己負担額なしで就労移行支援事業所を利用する人も多いです。
厚生労働省によると、障害福祉サービスを利用している人(98.5万人)のうち、約92.7%が無料で利用していることがわかっています。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
---|---|---|
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯※1 | 0円 |
一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満※2)ただし、入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除く※3 | 9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
※1
3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入がおおむね300万円以下の世帯が対象。
※2
収入がおおむね670万円以下の世帯が対象。
※3
入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、「一般2」に該当。
Q4.就労移行支援はなぜ2年間までしか利用できないの?
就労移行支援事業所は、就職に向けて明確な目標を持って準備をすることを目的としたサービスであるため、利用期間は原則で最大2年間と定められています。
最後に
ここまで、HSPの特性がある人が就労移行支援事業所を利用する条件や、利用するメリット、HSPの傾向にある人に向いていると言われる仕事について、就労移行支援事業所の元支援員である筆者がご紹介してきましたが、いかがでしたか。
HSPの人は繊細で感受性が高いために、人間関係や社会生活で悩むことも多かったかもしれません。就労移行支援事業所では、自己理解を深めた上でご自身にあった就職先を見つけるサポートを受けることができます。ご自身にあった職場に就職したいと考えている場合は、ぜひ利用を検討してみてはいかがでしょうか。
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最後までお読みいただきありがとうございました。