アルコール依存症のある人が就労移行支援を利用して就職するまでの流れを精神保健福祉士が解説

アルコール依存症のある人の中には、「就労移行支援を利用したら就職して働くことができるの?」や「就労移行支援を利用するメリットは?」といった疑問を持っている人もいるかもしれません。

この記事では、アルコール依存症のある人が就労移行支援を利用するメリットや就職するまでの流れを、精神保健福祉士である筆者がご紹介していきます。

この記事の監修者

メンタルエイド代表。サービス管理責任者、社会福祉士、精神保健福祉士、ジョブコーチ、心理カウンセラー、幼稚園教諭。就労移行・就労定着支援サービスを行う事業所に12年従事。120名の障がい者就労の実績があり、面談は1,000人以上。多くの面談実績からオリジナルの上村式認知整理面談技法を発案。

目次

アルコール依存症(精神障害)とは

アルコール依存症とは、長期間に渡ってアルコールを大量に摂取し続けることで、アルコールを摂取しないといられなくなる状態になる病気で、精神障害の1つに分類されます。

現在日本では、80万人のアルコール依存症の人がいると推定されています。

(参考:厚生労働省「成人の飲酒実態と関連問題の予防について(独立行政法人国立病院機構 久里浜アルコール症センター )」)

アルコール依存症の症状

アルコール依存症になると、次のような症状が引き起こされます。

  • 昼夜問わず飲酒のコントロールが出来なくなる
  • イライラ感
  • 不眠
  • 動悸
  • 震え
  • 頭痛
  • けいれん発作
  • 幻覚、幻聴など

アルコール依存症の仕事への影響・困りごと

アルコール依存症の症状は、血液中のアルコール濃度が低くなるとひどくなるため、普通の仕事や生活を送ることが難しくなります。

アルコールを常に摂取し続けないと、禁断症状で震えやイライラ感が生じ、他人と衝突しやすくなり、注意力も散漫になるので仕事にも支障が出ます。

アルコール依存症の人に向いている仕事

一般的にアルコール依存症の人に向いている仕事と言われるのは、基本的に自分のペースで働くことができ、お酒の存在を忘れられるような没頭できる仕事が向いているとされています。

一例として、次のようなものが挙げられます。

アルコール依存症の人に向いている仕事の一例
  • デザイナー
  • ライター
  • 研究者
  • プログラマーなど

反対に、飲み会に出席しなくてはいけない職種(営業職など)や、コミュニケーションが盛んな職場は、お酒に触れる機会が多くなってしまうため避けた方が無難です。

また、アルコール依存症は再発のリスクが高いため、病院や自助グループにストレスなく通うことができる職場であるかどうかも判断基準の一つになります。

アルコール依存症の人は就労移行支援を利用できるの?

就労移行支援事業所は、国からの補助を受けて障害や難病がある人たちの就職をサポートするサービスを行っています。アルコール依存症がある人は、日常生活や社会生活に障害がある場合、就労移行支援事業所を利用できる可能性があります。

就労移行支援事業所を利用するためには、

  • 18歳以上65歳未満
  • 障害もしくは難病がある
  • 一般企業への就職を目指している
  • 受給者証を所有している

という条件を満たしていることが必要です。

アルコール依存症の人は障害者手帳を取得できるの?

アルコール依存症の人は、アルコールが原因で長期にわたって日常生活や社会生活に障害がある場合、初めてアルコール依存症の治療を受けた日から6ヵ月経過していれば、精神障害者保健福祉手帳を取得できる可能性があります。

精神障害者保健福祉手帳の等級は、原則的に、常に誰かの援助がなければ日常生活がおくれない場合は1級、日常生活・仕事に支障が出ている場合が2級、仕事に制限がある場合が3級というように分かれており、2級または3級になるケースが多いです。

平成28年9月に、認定基準をより具体的に示した「精神の障害に係る等級判定ガイドライン」が発表されて、審査の基準となっています。

障害者手帳がなくても就労移行支援に通える?

障害者手帳がなくても就労移行支援に通うことは可能です。

医師の診断書をはじめ、意見書や就労移行支援の利用が必要であることが分かる文書があれば、就労移行支援の利用が可能になるケースがあります。

アルコール依存症の人が就労移行支援を利用するメリット

次に、アルコール依存症の人が就労移行支援を利用するメリットについて解説します。

メリット①健康管理ができるようになる

就労移行支援事業所では、生活リズムの整え方や運動習慣を身につけられるプログラムなどがあります。毎日通うことで、自然と健康的な生活を送れるようになるでしょう。

メリット②集中力や持続力が身につく

就労移行支援事業所では、それぞれの障害や病気の特性に合わせてプログラムが組まれています。

毎日継続することで集中力や持続力が高まり、仕事をする上で支障が出ないようになっていきます。

メリット③適性に合った職場探しをサポートしてもらえる

アルコール依存症の後遺症などがあっても、適性に合った職場へ就職できるように面接の練習や書類の書き方などのサポートをしてもらえます。

アルコール依存症の人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れ

アルコール依存症の人が就労移行支援事業所を利用して、実際に就職するまでの流れをステップごとにお伝えします。

ステップ①:基礎的な訓練

就労移行支援事業所に通い始めると、乱れがちな日常生活を整えたり、病気の自己理解を進めたり、就労に必要な基礎的な訓練が行われます。毎日同じ時間に決められたことをこなせるようになるためのステップです。

ステップ②:実践的な訓練

次に、より実践的な訓練が始まります。ここでは、パソコンスキルやビジネスマナー、専門的なIT関連のスキルなど、より高度な能力を習得するための訓練が行われます。

ステップ③:就職準備

基礎訓練と実践的な訓練を終えると、就職の準備に入ります。ここでは、職場見学や就職試験を想定した面接の練習、履歴書や職務経歴書の書き方などのサポートを受けることができます。

また、実際の就職活動では企業実習や面接にスタッフが同行してくれる場合もあります。

ステップ④:就職・定着支援

実際に目標とする企業へ就職したあとは、安定して働き続けられるように、定期的に面談や相談をするなどの就職定着支援が行われます。

事業所によっては最大3年6ヶ月間、定着支援サポートを受けることができます。

アルコール依存症の人が利用できる働くための支援機関

アルコール依存症の人が利用できる働くための支援機関は、就労移行支援事業所だけではありません。ここでは、「就労継続支援」と「自立訓練」、「障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)」の支援機関の特徴を紹介します。

※このほかに、アルコホーリクス・アノニマス、通称「AA」というアルコール依存症のある人が回復をするために参加する自助グループに参加することも、働き続ける上で大きな助けになります。AAでは断酒しながら働いていること自体を称賛されるため、自己肯定感の向上や症状の安定につながります。

支援機関①就労継続支援

就労継続支援とは、障害や難病によって一般就労が困難な人を対象とした障害福祉サービスです。障害や体調に合わせて、福祉的就労の中で自分のペースで働くことができます。

就労継続支援A型は雇用契約を結んで最低賃金以上の給与をもらいながら働くことができます。一方、就労継続支援B型は雇用契約を結ばずに工賃をもらいながら働くことができます。

支援機関②自立訓練

自立訓練とは、障害のある人が自立した生活に向けて、生活能力の維持・向上を目指していく場所を指します。食事やお金・体調管理など生活に必要な能力を身につけられるようにサポートが行われます。

通所型や訪問型などに分かれており、その人の特性に合わせて選べるようになっています。

支援機関③障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)

障害者就業・生活支援センター(なかぽつ)とは、障害者に対する総合的支援の充実を目的として設立された組織です。都道府県知事が指定する「公益法人」「社会福祉法人」「特定非営利活動法人(NPO)」などが運営しています。

就業面と生活面の一体的な相談支援が行われています。

アルコール依存症の人におすすめの就労移行支援の選び方・比較方法

アルコール依存症の人が就労移行支援事業所を選ぶときに、どのような観点から選べば良いのでしょうか。詳細を解説していきます。

選び方・比較方法①プログラムの内容

就労移行支援事業所は、それぞれの事業所ごとに行うプログラムの内容が異なります。

そのため、就労移行支援事業所を選ぶ際は、自分の障害や難病の特性に合ったプログラムが組まれている所を選ぶと良いでしょう。

選び方・比較方法②事業所の雰囲気

就労移行支援事業所によっては、アルコール依存症の回復に力を入れている所もあり、そのような事業所では基本的な生活能力の回復を重点的に行います。

スタッフの関わり方なども事業所によって異なるので、さまざまな事業所の雰囲気を比較しながら、自分に合った所を選ぶことがおすすめです。

選び方・比較方法③就職の実績

就労移行支援事業所に通う人の最終的な目標は、一般企業への就職です。そのため、就職までの利用期間や就職率、もし働きたい職種が決まっている場合はそうした職種への就職実績を確認してみてください。

また、就職後も安定的に働き続けられるよう、職場定着率がどのくらいなのかという観点で比較するのも大切になります。

就労移行支援事業所に関するよくある質問

Q1.就労移行支援事業所の利用条件・対象者は?

就労移行支援事業所は、以下の4つの条件を満たしている人が対象者とされています。

【就労移行支援事業所の対象者】

  1. 一般就労を希望している
  2. 障害・難病がある
  3. 65歳未満である※
  4. 適性に合った職場への就労等が見込まれる

サービスを利用できるかどうかの判断は市区町村が行っているため、「自分は就労移行支援事業所の利用対象者なのだろうか?」と不安の場合は、お住まいの市区町村の障害福祉担当部署にまずは相談してみてください。また、就労移行支援事業所のスタッフがサポートしてくれる場合もあります。

Q2.就労移行支援と就労継続支援の違いは?

就労移行支援事業所と就労継続支援A型・B型事業所の大きな違いは、利用期間と一般企業等への就職率です。

就労移行支援が一般企業へ就職する人の割合が『56.3%』と一番大きく、反対に就労継続支援B型が一般企業へ就職する人の割合が『10.1%』と小さくなっています。※

また、就労移行支援事業所は利用期間が原則2年間となっていますが、就労移行支援事業所は利用期間に制限がありません。

※参考:厚生労働省 「就労移行支援に係る報酬・基準について」より

Q3.就労移行支援事業所は利用料がかかるの?

就労移行支援事業所の利用者が負担する料金は、1回あたりおよそ500円〜1,400円です。ただし、所得に応じてひと月当たりの負担上限金額が決まっているため、自己負担額なしで就労移行支援事業所を利用する人も多いです。

厚生労働省によると、障害福祉サービスを利用している人(98.5万人)のうち、約92.7%が無料で利用していることが分かっています。

区分世帯の収入状況負担上限月額
生活保護生活保護受給世帯0円
低所得市町村民税非課税世帯※10円
一般1市町村民税課税世帯(所得割16万円未満※2)ただし、入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除く※39,300円
一般2上記以外37,200円
(出典:厚生労働省「障害者の利用者負担」により作成)

※1
3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入がおおむね300万円以下の世帯が対象。

※2
収入がおおむね670万円以下の世帯が対象。

※3
入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、「一般2」に該当。

最後に

今回は、アルコール依存症の人の就労移行支援について詳しく解説しました。アルコール依存症がある場合でも、就労移行支援を利用すれば一般企業への就職を目指すことが可能です。

就労移行支援事業所の検索サイト『デイゴー就労支援ナビ』では、事業所の雰囲気、就職実績、プログラム内容などを一覧で比較することができますので、ぜひご活用ください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事を書いた人

心理カウンセラー、精神保健福祉士、社会福祉士。大学卒業後、カウンセリングセンターにて、メンタルヘルスに関する講座やセミナーの講師、 個人カウンセリングに携わる。その後、精神科病院でソーシャルワーカー兼カウンセラーとして患者様やご家族のカウンセリング、助言や相談などの仕事に従事。

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