障害や病気がありしばらく働いていない人の中には、「障害者手帳なしでも就労移行支援を利用できるのだろうか?」といった疑問を持っている人もいるかもしれません。
この記事では、就労移行支援を障害者手帳なしで利用できる条件や、利用するために必要な書類についてご紹介していきます。
就労移行支援事業所は障害者手帳なしでも利用できるの?
就労移行支援事業所とは、就労を目指している方に向けた障害福祉サービスです。「働きたい」という意欲があり、一般企業に雇用されることが可能と見込まれる障害のある方に対して、一定期間、必要な訓練・支援を行います。
障害のある人が利用対象ということで、障害者手帳がないと利用ができないと思っている方がいらっしゃるかもしれません。実は、条件を満たしていれば、障害者手帳なしでも就労移行支援事業所を利用することができます。
就労移行支援事業所を障害者手帳なしで利用できる条件
就労移行支援事業所は、国が設ける障害福祉サービスの一つです。障害福祉サービスを利用するには、「障害福祉サービス受給者証(以下、「受給者証」と呼称します。)」の交付が必要となります。
受給者証は、医師の診断書または意見書があれば、障害者手帳を持っていなくても以下の流れで発行してもらうことができます。
- 主治医に診断書または意見書を依頼する
- 診断書または意見書を持って役所へ申請に行く
- 相談支援事業所にサービス等利用計画案の作成を依頼する
- 障害支援区分認定調査を受ける※
- 市区町村による障害区分の認定
- サービス等利用計画案・セルフプランの提出
- 支給決定・受給者証発行
※行政の窓口で行われる場合や、認定調査員の訪問により行われる場合など、市区町村によって認定調査の実施方法は様々ですので、事前に確認をしてみてください。
受給者証については、こちらの記事でも詳しくご紹介しています。
また、就労移行支援事業所の利用条件は、以下の通りです。
- 就労意欲がある人
- 一般企業での就労が可能と見込まれる人
- 原則、所定の事業所へ一定期間通所が可能である人
- 18歳以上65歳未満で障害がある人
障害者手帳なしで就労移行支援を受けるために必要な書類一覧
障害者手帳なしで就労移行支援事業所を利用するには、以下の書類が必要となります。市区町村によって違いもある場合がありますので、詳しくは、お住いの市区町村へ問い合わせてみると良いでしょう。
- マイナンバーのわかるもの・・・身元確認のために必要となります。
- 申請書・・・窓口で取得が可能です。
- 医師の意見書・診断書・・・医師により、申請者が就労移行支援サービスの対象であることが証明されます。(自立支援医療受給者証があればなくても可)
- 自立支援医療受給者証・・・精神科・心療内科等への通院にかかる医療費の負担が軽くなる「自立支援医療(精神通院医療)」の受給者証は、サービス提供を受けることが適切であることが証明されます。(医師の意見書・診断書があればなくても可)
- 市町村民税課税証明書・・・利用料の自己負担額を決定する際に参考にされます。前もって取得をしていなくても、窓口で調べてくれる場合も多いです。
医師の診断書・意見書を受け取る方法
医師の診断書・意見書を受け取るには、まず、通院先の主治医に記入の依頼を行います。市区町村が指定するフォーマットがあればそちらを事前に用意し、病院へ持参すると良いでしょう。
即日記入をしてくれるところもありますが、数日かかる場合が多いです。尚、診断書・意見書の作成には、費用がかかります。病院によって金額が違うため一概には言えませんが、保険適用外なので2,500~8,000円程度かかると考えておきましょう。
障害者手帳がなくても利用できる他の就労支援サービス
ここでは、就労移行支援事業所以外で、障害者手帳を持っていない場合でも利用できる就労支援サービスをご紹介します。
①障害者就業・生活支援センター
障害者就業・生活支援センターは、利用者の身近な地域において就業面と生活面の一体的な相談・支援を行います。例えば、職業準備の訓練や職場実習のあっせん、利用者の障害特性、能力に合った就職先の選定や就職活動の支援などです。
②地域障害者職業センター
地域障害者職業センターは、ハローワーク等の地域の就労支援機関との密接な連携のもと、障害者に対する専門的な支援を行う施設として、全国47都道府県に設置された機関です。
利用者一人ひとりのニーズに応じて、職業準備の訓練などを行います。また、事業主に対しても雇用管理に関する専門的な助言や支援を実施します。
③就労継続支援A型事業所
就労継続支援A型事業所は、雇用契約に基づく就労の機会を提供します。一般就労に必要な知識、能力が高まった者について、一般就労への移行に向けて支援を実施します。
④就労継続支援B型事業所
就労継続支援B型事業所は、雇用契約は結ばず、就労や生産活動の機会を提供します。一般就労に必要な知識、能力が高まった者は、一般就労等への移行に向けて支援を実施します。
障害者手帳を取得できる人の条件は?
障害福祉サービスの利用は障害者手帳がなくても可能ですが、取得することで様々な良い点があります。代表的なものをご紹介していきます。
- 障害者雇用枠での就労・・・障害者雇用では、自身の障害を一緒に働く人たちへ開示したうえで、配慮を得ながら働くことができます。
- 税金の「障害者控除」・・・所得税や相続税、住民税、贈与税などの税金が軽減され、経済的負担が軽くなります。
- 医療費助成・・・心身障害者医療費助成や自立支援医療により、医療費の一部が助成されます。
- 公共交通機関等の減免・割引制度・・・電車やバス会社各社での「障害者割引運賃」の適用などがあります。
今回は、代表的なものに絞ってご紹介しましたが、障害者手帳を取得することによるメリットは他にも数多くあります。市区町村で独自の制度を設けている場合もありますので、詳細を知りたい方は、お住まいの役所等に確認をしてみると良いでしょう。
では、どのような方が障害者手帳を取得できるのでしょうか。対象になる方の条件を以下に記載します。
身体障害者手帳 | 療育手帳 | 精神障害者保健福祉手帳 | |
---|---|---|---|
対象障害 | 視覚障害 聴覚障害 平衡機能障害 音声・言語機能障害そしゃく機能障害肢体不自由 心臓機能障害 じん臓機能障害呼吸器機能障害 ぼうこう又は直腸機能障害 小腸機能障害ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能障害 肝臓機能障害 | 知的障害 | 統合失調症気分(感情)障害非定型精神病てんかん中毒精神病器質性精神障害(高次脳機能障害含む)発達障害その他の精神疾患 |
等級 | 1~7級(※7級の障害1つのみは手帳交付対象外) | 軽度・中度・重度・最重度の4段階東京都:1~4度埼玉県:Ⓐ~C神奈川県:A1~B2 | 1~3級 |
所持者数(令和4年度) | 4,842,344人 | 1,249,939人 | 1,345,468人 |
また、障害者手帳の交付申請を行うには、医師の診断書・意見書が必要となります。診断書・意見書を以て、申請者が障害者手帳交付の対象であることが証明されます。
就労移行支援に関するよくある質問
そもそも就労移行支援事業所とは?
就労移行支援事業所とは、障害者総合支援法における障害福祉サービスの1つです。一般就労に向けて、一定期間、必要な知識や能力の向上のために訓練を行います。
原則、事業所に通所をして訓練を受けるため、決まった時間に起床・就寝するという基本的な生活習慣を身に付けることができ、事業所内での他の方との関わりによって協働するために必要なスキルの習得等が期待できます。
また、訓練を経て、就職活動の段階に到達したら、実際の企業で職場実習を行ったり、模擬就労プログラムを受けたりします。
このように、就労移行支援事業所では、単に就職をゴールとしているのではなく、より安定的に働き続けることを目的に訓練や支援が行われます。
就労移行支援を利用する流れ・手続きは?
就労移行支援事業所を利用するには、以下の流れで手続き等を行います。
①事業所の検索・見学
まずは、どの事業所に通うかを検索するところからスタートです。事業所のホームページをインターネットで検索したり、お住まいの役所等に相談したりしながら情報収集をすると良いでしょう。その後、事業所の見学や体験利用を通して、通いたい事業所を決定します。
②受給者証の申請手続き
就労移行支援事業所を利用したいことを市区町村の担当窓口に伝えます。必要書類や今後のスケジュール等詳しいことを教えてくれるでしょう。
③障害支援区分の認定調査
担当者との面談を通して、認定調査が行われます。
※行政の窓口で行われる場合や、認定調査員の訪問により行われる場合など、市区町村によって認定調査の実施方法は様々ですので、事前に確認をしてみてください。
④サービス等利用計画案の作成、提出
申請者は、相談支援事業所へサービス等利用計画案の作成を依頼します。申請者にとって最も適切なサービス等について検討がなされた上で、作成が行われます。
ただし、市区町村によっては相談支援事業所ではなく、ご自身で計画案を作成する「セルフプラン」が認められている場合もあります。セルフプランが認められている市区町村では、就労移行支援事業所で計画案の書き方を教えてくれる場合も多いです。
⑤就労移行支援事業所と利用契約
申請から1週間~2か月ほどで受給者証が届きます。届き次第、利用を希望している就労移行支援事業所と利用契約を結びます。
⑥利用開始
就労移行支援事業所の利用が始まります。
就労移行支援と就労継続支援の違いは?
就労系障害福祉サービスの中には、就労継続支援A型・B型というものがあります。就労移行支援事業所と非常に似た名称ですが、両者の「目的」は異なります。
就労移行支援事業所は、一般就労をするための訓練を行う事業所です。一方、就労継続支援A型・B型は、事業所内での福祉的就労を通して知識・能力を向上させることを目的としています。
そのため、就労移行支援事業所は原則2年間という利用期限が設けられているのに対し、就労継続支援事業所には利用期間の制限がありません。
最後に
今回ご紹介してきたとおり、障害者手帳を取得することのメリットが数多くある一方、ご家族から反対されていたり、ご自身の障害を受け入れられず躊躇していたりと、何らかの理由で障害者手帳を取得していない人は、少なからずいます。
就労移行支援をはじめとする就労系障害福祉サービスは、障害や病気等があっても「働きたい」という意欲のある方を応援するサービスです。また、障害者手帳の有無を問わず、受給者証が交付されれば利用が可能です。
就労移行支援事業所では、就職活動の支援だけではなく、ご自身の障害や病気への理解を深めるプログラムを受けたり、専門の支援員による客観的な助言を得られたりする機会が多々あります。迷っている人は、お住まいの地域や最寄り駅の近くに、どのような就労移行支援事業所があるかを知ることからスタートをしても良いのではないでしょうか。
就労移行支援事業所の検索サイト『デイゴー就労支援ナビ』では、就職実績、職員の専門性、プログラム内容などを一括で比較することができますので、ぜひご活用ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。