就労移行支援の利用を考えている人の中には、「就労移行支援には『闇』があるって本当?」と疑問を持っている人もいるかもしれません。
この記事では、就労移行支援事業所には「闇」がある?という噂についての実態と実際に通所経験がある筆者の感想、自分に合った事業所の選び方について紹介していきます。
就労移行支援事業所には「闇」があるというのは本当?
多くの就労移行支援事業所は障害のある人の就職に向け、日々試行錯誤しながら真摯に取り組んでいます。
しかし、一部の利用者の中には、就労移行支援に対して以下のようなネガティブな意見を持っている場合もあるようです。
- プログラムのレベル感が合わない
- 職員の障害の症状や特性に関する知識が浅いと感じる
- 事業所の訓練環境が合わない
- 利用者よりも売上を重視する方針
プログラムのレベル感が合わない
就労移行支援事業所には、さまざまな障害のある人が通っています。そのため、人によって訓練のカリキュラムが簡単すぎる、または難しすぎるといった訓練内容の満足度に「差」が生じやすい場合もあります。
就労移行支援では個別支援を強みにしている事業所がある一方で、グループごとに訓練をしているところも多いです。事業所は利用者の満足度を高めるために、できる限り利用者の平均レベルの講座を実施する割合が高いため、一部の利用者の中にはレベル感が合わない場合もあります。
障害特性や症状に関する職員の知識が浅い
最近では、IT特化型など専門的なスキルの職業訓練を行う事業所が増えました。しかし、そうした事業所では過去に福祉に関する経験がまったくない人材の雇用も増加しています。
独立行政法人高齢・障害者雇用支援機構障害者職業総合センターの調査では、以下のような事例にもあるように、社会人経験はあっても障害福祉の知見がないゆえに、利用者が感じる知識不足によってコミュニケーションに相違が生まれることや、明らかに障害の症状や特性によって難しいことを要求されることもあるようです。
職員には社会経験が大事だと考えるが、福祉の経験がない人を雇用したが根本的な考え方や福祉の基礎的な知識が欠如しており上手くいかないことがあった
就労支援機関が就労支援を行うに当たっての 課題等に関する研究. 障害者職業総合センター
事業所の訓練環境が合わない
感じ方は人それぞれではありますが、就労移行支援事業所に「闇」と感じやすい訓練環境の例として、PCが古い・事業所が汚い・個別のデスクがないため集中できない・音がうるさいなどが挙げられます。
事業所の訓練環境は見学によって確かめることができるため、通う事業所を決める前にぜひ一度事業所へ足を運ぶことをおすすめします。
利用者よりも売上を重視する方針
就労移行支援事業所の中には、一人ひとりにあった就職先に就職できるようにサポートすることよりも、むしろ利用者のことは後回しで売上を最重視している事業所も一部にはあります。
利用者が通所することで収入を得ることができるため、売上ばかりを重視する事業所の中には、就職活動を中々始めさせてもらえないところや、休ませてもらえないところもあるようです。
就労移行支援事業所に実際に通ってみた感想・体験談
ここからは、就労移行支援事業所を利用して就職し、IT企業で事務職(障害者雇用)として勤務している筆者が、実際に就労移行支援事業所を通ってみた感想・体験談をご紹介していきます。
就労移行支援事業所に通う前の状況
筆者は元々、高校生あたりから多少の違和感を感じていましたが、社会人になってその違和感は悪化を辿っていました。就労移行支援事業所に通う直前の企業では、一般雇用でデザイナーとして勤務していました。しかし、そこで障害による症状で仕事のしづらさがこれまで以上に明確に現れ、仕事のできなさを叱責されたことで体調不良を起こし職場にいけなくなった挙句、退職してしまいました。
なぜ就労移行支援事業所に通おうと思ったのか
自分の障害特性や対処法を考える自助努力を習慣化させたかったためです。職場で上手く意思伝達ができないと他の社員に迷惑がかかります。
そのため、自分の障害が周囲にどんな風に見られているか、職場でどんな影響があるかを常に考えつつ、会話のキャッチボールや報連相といった基礎的な部分から人前で話す、集団の中で視線を浴びるなど負荷をかけていく過程でセルフケアを学ぶ必要があったので就労移行支援に通所することにしました。
就労移行支援事業所を見学した何ヶ所かでは、人数が少なく、少し覇気のなさを感じざるを得ませんでした。また、噂で聞いていたように見学後、入所を強く勧誘されることに戸惑いました。
就労移行支援事業所を選ぶときにどんなことに困ったのか
一番、悩んだのは「職員との相性」です。どの事業所も見学者に対しては愛想よく接してくれます。ただ、就労移行支援事業所に通うとなると長い時間を過ごすことになるので、一時的ではなく「長期的に伴走してくれる職員は誰か」の判断に非常に迷った記憶があります。
合わない事業所に通うことにならないためには、数値よりフィーリングを分析することが大切です。就職率や職場定着率などは検索サイトや事業所のホームページに載っていますが、本当に欲しい情報は「事業所の雰囲気」や「職員の真剣さ」などの表面に見えない部分ではないでしょうか。
そのため、必ず複数の事業所に見学に行き、違和感を覚えたことや事業所に入った瞬間のムードなどをメモしておくと後で見返したときに、フィーリングが最も合う事業所を選ぶのに役立つはずです。
実際に就労移行支援事業所に通ってみてどうだったのか
職員との相性は担当職員による部分が大きいです。見学時に対応してもらった職員が必ず担当になるとは限りません。幸い私は相性の合う職員に入所2ヶ月目から卒業までついていただいたので、非常に満足度の高い訓練や就職活動ができました。
振り返って思うことは職場でも同じですが「しっかりと自分の意思を伝えること」が職員と円満な関係を築くコツであると思います。
時折、私の伝え方が悪かったこともあり、就職活動の応募する企業選びで担当職員と意見が食い違ってしまい、なかなか応募が進まないことが何度かありました。
しかし、結果的には、第一志望の企業に就職が決まったので就労移行支援事業所に通ったことは英断だったと思っています。
悪質な就労移行支援事業所は事業継続不可とされる場合も
悪質な就労移行支援事業所は、行政から指定取消処分を受ける場合もあります。
指定取消とは、障害福祉事業所が不正を行った場合、行政による指示で運営禁止、事業継続を停止させることができるという規則です。
都道府県知事は、次の各号のいずれかに該当する場合においては、当該指定障害福祉サービス事業者に係る第二十九条第一項の指定を取り消し、又は期間を定めてその指定の全部若しくは一部の効力を停止することができる。
障害者自立支援法 第五十条
この「指定取消」によって悪質な事業所は事業継続不可となり、事業をたたむこともあります。
指定取消の事例 :大阪府の就労移行支援事業所
不正請求(障害者総合支援法第50条第1項第5号)
通所していない利用者について、通所しているかのように「サービス提供実績記録票」を作成し、訓練等給付費を不正に請求し受領した。
大阪府
指定取消の事例:新潟県新潟市の就労移行支援事業所
人員基準違反(障害者総合支援法第50条第1項第3号該当)】
・指定当初から、管理者兼サービス管理責任者が常勤で勤務しておらず、人員基準違反状態のままサービスを提供していた。
運営基準違反(障害者総合支援法第50条第1項第4号該当)
・指定当初から、管理者兼サービス管理責任者が常勤で勤務しておらず、サービス管理責任者による適切な個別支援計画が作成されていなかった。
新潟県「障害者総合支援法に基づく行政処分について 」
自分に合った就労移行支援事業所を探すための比較方法
比較方法① 事業所のレベル
事業所のレベルを知るためには、実際に見学してみることが大切です。当日行っている訓練を体験できることもあるので、訓練を受けてみて「プログラムについていけるか」をチェックしましょう。
また、可能なら直近の就職者の勤務先を尋ねてみましょう。大手企業などに卒業生を複数排出している事業所は、やはり訓練の質や集まる利用者のレベルが高い傾向があります。
比較方法② プログラム内容
プログラムは事業所によって、大きく変わります。一括りに就労移行支援事業所と言っても大手運営、発達障害専門、IT/web専門、AI系、他にも最近では語学に注力する事業所なども出てきており、種類は豊富です。
また、事業所を架空のオフィスに見立て、実務を意識した事務作業や電話応対、企画を行う事業所やe-ラーニングを活用した事業所、外部のデザイン養成スクールと提携した講義を行う事業所など就労移行支援のプログラムは多様になってきています。
知名度で決めるのではなく、自分がどんなことを学びたいか、何を優先して訓練したいかを事前に明確にして、自分に必要なプログラムが組まれた事業所を選びましょう。
比較方法③ 事業所の雰囲気
事業所の雰囲気は見学に行って見ることをおすすめします。黙々と自分の決めた学習をしている事業所もあれば、利用者間のコミュニケーションを重視し、グループワークを多めに実施している事業所もあります。また、IT/web専門の事業所では、プログラマやwebデザイナーの実務を意識し、職員に学習進捗や結果を報告、相談することを徹底して身につけてもらおうとする事業所などもあるので、真剣なムードが漂っていることもあります。
ゆるやかで、個人任せの事業所もありますが、働くことを意識した真剣な雰囲気で訓練を行っている事業所に入所することをおすすめします。
比較方法④ 訓練の仕方
職員から利用者に声をかけ、講座のリーダ役に抜擢するなど、どちらかというと受動型の事業所が多いと思いますが、逆に「職員は相談されたら答える」という形式で報連相を利用者から行うよう働きかけている事業所など訓練の仕方や方針も違います。
自学自習、e-ラーニングを活用する事業所では「自ら課題解決に臨めるか」という実務でも必要な力を身につけられます。
また、グループワークなど集団内で率先して動くことや協調生など組織で働く上で必要な力を伸ばすことを重点的に行う講座受講がメインの事業所もあるので、自分のウィークポイントを克服するという観点で探すのもいいでしょう。
比較方法⑤ 交通費、昼食代の支給があるか
障害福祉サービスである就労移行支援は人によって利用者がかかることがあります。
障害福祉サービスの自己負担は、所得に応じて次の4区分の負担上限月額が設定され、ひと月に利用したサービス量にかかわらず、それ以上の負担は生じません。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
---|---|---|
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯(注1) | 0円 |
一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円(注2)未満) ※入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除きます(注3)。 | 9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
(注1)3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入が概ね300万円以下の世帯が対象となります。
(注2)収入が概ね670万円以下の世帯が対象になります。
(注3)入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、「一般2」
となります。
そのため、利用料+交通費、昼食代となると月額の出費は大きくかかってきます。就労移行支援事業所は原則、就労ができないため費用がネックとなって通えないという声もあります。
そこで検索サイトや自治体の相談所を活用し、交通費と昼食代を支給してくれる事業所を探すことも長期的に経済負担少なく通えるポイントになります。
合わない・悪質な就労移行支援に入所してしまった場合の対処法
万が一、体調がよくないのに無理矢理通所をさせられる、希望していないのに労働条件の悪い企業へ押し込まれるなど、就労移行支援事業所で悪質な対応を取られた時は、個人で抱え込まずしかるべき機関に相談しましょう。
ここでは、対処法としていくつかの相談先を紹介するとともに、事業所の変更はできるか、その手続きなどについて解説します。
各自治体の障害者支援施設苦情・相談窓口
各自治体には就労移行支援事業所の苦情・相談窓口を設けていることが多いです。
ご自身と事業所で話し合っても解決しない場合は、自治体に相談し第三者を挟んで解決を図るようことも検討してください。
運営適正化委員会
運営適正化委員会は言わば、事業者が福祉サービスを適正に運営しているかを調査する団体です。
電話やメールでも相談することが可能で、就労移行支援で起こったトラブルや苦情の解決を図って貰えます。
相談支援専門員
相談支援専門員はいわば、障害のある人が就労移行支援事業所と連携をはかり、適切に訓練を受けられるよう計画を立てるプランナーです。事業所に対する苦情相談も解決にはかってくれます。
もう同じ事業所に通えないと感じたら
第三者に相談もしづらい、でも「どうしても事業所は辞めたい」と思ったときの最終手段として「就労移行支援事業所を変更する」こともできます。
就労移行支援事業所に通うことができる期間は「原則通算2年間」ですが、何も必ず同じ事業所で通い続けなくても問題ありません。
ただし、もう1度、就労移行支援事業所に通う場合は過去の在籍期間は累積するので、1年通っていた場合は、残り原則1年間の利用となります。
そのため、何度も変更できるわけではないので同じようなトラブルに巻き込まれないためにも検索サイトや事業所のクチコミをしっかり調査し、比較した上で慎重に選んでください。
最後に
ここまで、就労移行支援事業所には「闇」がある?という噂についての実態と、実際に通所経験がある筆者の感想、自分に合った事業所の選び方についてご紹介してきましたが、いかがでしたでしょうか。
就労移行支援事業所選びは、根気がいりますが見学に行き、職員と話をしてみる、利用者の訓練の様子をみる、不明点は具体性を求め、職員の回答に嘘はなさそうかなどを自分の目で確かめることが重要です。
自分に合わない就労移行支援事業所に入所しないためにも、最低でも2〜3つの就労移行支援事業所を必ず比較検討し、見学・体験に行った上で慎重に事業所選びをしましょう。
就労移行支援事業所の検索サイト『デイゴー就労支援ナビ』では、お住まいの地域や駅から就労移行支援事業所を探し、就職実績、職員の専門性などを比較することができますので、ぜひご活用ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。