ADHD(注意欠如・多動症)のある人が就労移行支援を利用して就職するには?

ADHD(注意欠如・多動症)があるため就職が難しいと感じている方や休職をしている方の中には、「ADHDがあっても就労移行支援を利用したら就職できるの?」や「ADHDのある人が就労移行支援事業所を利用するメリットってあるの?」といった疑問をお持ちの方もいるかもしれません。

この記事では、ADHD(注意欠如・多動症)のある人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れや、向いている仕事、就労移行支援事業所を利用するメリットについて、就労移行支援事業所を利用して一般就労をしている経験のある筆者がご紹介していきます。

この記事の監修者

メンタルエイド代表。サービス管理責任者、社会福祉士、精神保健福祉士、ジョブコーチ、心理カウンセラー、幼稚園教諭。就労移行・就労定着支援サービスを行う事業所に12年従事。120名の障がい者就労の実績があり、面談は1,000人以上。多くの面談実績からオリジナルの上村式認知整理面談技法を発案。

目次

ADHD(注意欠如・多動症)のある人が利用できる就労移行支援とは?

就労移行支援とは、障害のある人が一般企業へ就職する「一般就労」を支援する障害福祉サービスです。障害のある人の中でも、一般就労が可能であると見込まれており、かつその意思がある人を対象としています。

就労移行支援を利用する際には、料金こそ発生しますが本人が負担することはほとんどありません。厚生労働省によると、障害福祉サービスを利用している人のうち、約92.7%が負担金は0円であることが分かっています。

同じ就労系の障害福祉サービスには「就労継続支援(A型・B型)」もあります。就労継続支援と比較したうえでの特徴は、やはり就労移行支援には2年間の期限が設けられていることが挙げられるでしょう。

ADHD(注意欠如・多動症)のある人が就労移行支援を利用して就職するまでの流れ

就労移行支援を利用し始めてから就職するまでには、「基礎訓練期」、「実践的訓練期」、「就職準備期」の3つのステップがあります。進度に個人差はありますが、この流れはADHDがある人に限らずどんな障害・病気のある人でも共通します。

基礎訓練期

まず基礎訓練期には、生活リズムの改善を行い、安定した通所を目指します。はじめから週5日で通える状態ではないときは、少ない日数、例えば週1日から通所を始める場合や、在宅での訓練を組み合わせる場合もあります。

また、自分の障害特性についての理解を深めることや、障害特性による苦手への対策を練ることなどを行います。

実践的訓練期

次の実践的訓練期は、SST(ソーシャルスキルトレーニング)やストレス管理など入社後を見据えた講義やトレーニングが中心となります。資格を取ったり技能を磨いたりすることもでき、自由度の高い期間でもあります。また、自分の特性や興味などを振り返るにもいい機会になります。

就職準備期

最後は就職準備期です。面接や履歴書の作成など就活自体のトレーニングをしながら、ハローワーク等で求人を探したりインターンシップで社会人の生活リズムを体験したりして、実際の就職活動へと移ります。就職が決まってからは、仕事を辞めずに続けるための定着支援を最大3年間受けることが出来る事業所もあります。

ADHD(注意欠如・多動症)のある人が就労移行支援を利用するメリット

ここからは、ADHD(注意欠如・多動症)のある人が就労移行支援を利用するメリットをご紹介していきます。

自己理解が進む

ADHDがある人に限りませんが、就労移行支援を利用するメリットは、自己分析やトレーニングに必要な時間と環境が整っていることが挙げられます。職員は質問すれば分からないことにも答えてくれますし、他者からの視点という重要な役目も担っています。自分でも分からない適性を職員なら把握しているというケースも十分あり得ます。

就職活動の支援を受けることができる

また、SST(ソーシャルスキルトレーニング)や資格取得、就職活動といった働く上での実践的な力をつける取組みは、他の障害福祉サービスと比較しても就労移行支援が最も向いている分野でしょう。

ただし、就労移行支援はあくまで企業へ採用されるのを支援する場所であって、職場そのものをあっせんしてくれるわけではありません。そのため、一般企業等へ就職するためには企業の採用試験に合格する必要があることを心に留めておきましょう。

就職後に安定して働くことができる

就労移行支援事業所では、自己理解や対人スキルといったトレーニングを行うため、障害による困りごとへの対処方法を分かったうえで就職をすることになります。

ご自身の特性による苦手や課題に対して調整をできるようになるため、就職後も安定して働くことができます。

ADHD(注意欠如・多動症)のある人はどんな仕事が向いている?

一般的に、ADHDのある人は以下のような仕事に向いていると言われています。

ADHDのある人が向いている仕事の特徴
  • 芸術センスやクリエイティブ精神を活かせる
  • 外回りが多い
  • 個人のスキルが求められる
  • 完璧でなくてもある程度は許される

チームワークよりも個人のスキル、例えば芸術性やクリエイティブ精神を求められる分野に強いとされています。ひとくちにアーティストといっても、作曲やイラストやメイクアップなど様々ですが、プロとしても通じる腕前があるならそれ一本で生計を立てるのも可能でしょう。

ただ、誰もがプロのアーティストとして腕を振るえる訳ではありませんから、ADHDのある人にとって不向きな仕事を避けるようにする方がミスマッチは起こりにくいです。

ADHD(注意欠如・多動症)のある人が避けた方が良い仕事

特にADHDのある人は、以下のような特徴を持つ業種や職業は避けるべきです。

ADHDのある人が避けた方が良い仕事の特徴
  • 正確性が求められ、些細なミスも許されない
  • マルチタスクが当たり前
  • 一人ひとりの責任が重いチームプレー
  • 単純作業

ASD(自閉スペクトラム症)のある人にとっては向いていると言われるライン工・校正担当・データ入力は、ADHDのある人にとっては不向きな作業となります。

また、「電話対応」もマルチタスクが当たり前で責任も重い、ADHDのある人にとって困難な作業の一つです。

ただし、人によっては興味のある分野なら集中力が続くこともあるので、就労移行支援の段階で自身の興味について振り返っておくと良いでしょう。

就職自体がゴールではなく、働き続けて定着してこその一般就労です。どの仕事が向いているかよりも、不向きで克服できそうにない作業や業務を割り出して配慮事項を絞り込む材料とした方が、将来的にはよいのではないかと思います。

ADHD(注意欠如・多動症)のある人が障害者雇用枠で就職するメリットは?

就労移行支援事業所を利用して就職するADHDのある人は、一般枠で就職する以外に、「障害者雇用枠」を利用して就職する場合も多いです。ここでは、ADHDのある人が障害者雇用枠で就職するメリットをご紹介します。

企業ごとに定められた障害者雇用枠、または特例子会社は、給料は一般に比べて抑えられていますが、合理的配慮が行き届いている傾向があるほか、就職後に企業と連携をしながら定着支援サービスを受けることもできます。

また、障害者雇用枠がある企業は比較的大規模な会社が多く、福利厚生が整っていたり、キャリアアップの道筋が整えられていたりするところもあります。※

※障害者雇用枠ではない一般就労の場合でも定着支援サービスを受けることができます。企業との連携はないことがほとんどですが、就労移行支援事業所のスタッフとの面談を通して、働くうえでの困りごとへの対処の仕方などのアドバイスを受けることができます。

ADHD(注意欠如・多動症)のある人が就労移行支援を選ぶポイント

就労移行支援の事業所を選ぶうえで何が大事になるのでしょうか。それは「実績」と「通いやすさ」、「配慮内容」、「カリキュラムの内容」です。

ポイント①就労実績

就労移行支援の実績とは、利用者が一般就労へ結びつくことです。一般企業等へ就職した利用者の割合や、就職件数については必ずチェックしておいた方がいいでしょう。

また、就職後の職場定着率も重要です。職場定着率が高い事業所は、就職活動の時点でミスマッチがないようなサポートをしてくれている可能性が高いほか、定着支援サービスも手厚く行ってくれる場合が多いです。

ポイント②事業所への通いやすさ

無理なく通所できるかどうか、距離や交通手段などから判断するのも大事です。どれほど実績の豊かな事業所でも、毎日通うには無理のある距離だと、途中で通えなくなってしまう可能性もあります。ですから、事前に片道で何分かかるかは調べておくべきです。

また、満員電車の狭さやにおいが苦手な人の場合、就労移行支援事業所への通所時間に合わせて電車の込み具合なども確かめておくと良いかもしれません。

ポイント③障害への配慮内容

ADHDがある人の中には、集中力が長く続かない傾向にある人もいます。そのような場合には、休憩時間がこまめに設けられているかや、個室や半個室といった講座や訓練を行う席から離れる場所の有無なども確認しておくと良いでしょう。

ポイント④カリキュラムの内容

就労移行支援事業所で何を学べるかも重要なファクターです。通所を始めてから自分の適性に気付くこともあります、あらかじめ分かっている適性に合った勉強や訓練ができる方がより確実でしょう。そのため、作業内容やカリキュラムは見学・体験の段階で全て把握するつもりでのぞむのがおすすめです。

就労移行支援を受けることができる期間は2年間と限られています。性急に選ぼうとせず、自分が一般就労に至れるかどうか、実績と通所と内容の観点からチェックしてみましょう。その判断を大いに助けるのが事業所の見学・体験になりますので、いくつかの事業所の見学・体験に行き、比較・検討をしてみてください。

最後に

ここまで、ADHD(注意欠如・多動症)のある人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れや、向いている仕事、避けた方が無難な仕事について、就労移行支援事業所を利用して一般就労をしている経験のある筆者がご紹介してきましたが、いかがでしたか。

就労移行支援事業所を利用できる期間は2年間と決められているため、限られた時間を有効活用するためにも、ぜひ事前にいくつかの事業所を比較検討した上で、ご自身に合った事業所を見つけてみてください。

最後までお読みいただきありがとうございました。

この記事を書いた人

大学4年の時に就活うつとなり、自閉スペクトラム症(ASD)と診断される。
就労継続支援A型/B型事業所、就労移行支援事業所を利用。
現在は障害者ドットコム株式会社(https://shohgaisha.com/)で正社員として働いており、4年目になる。

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