就労移行支援に通うことを検討している人の中には、「就労移行支援は『意味ない』という噂は本当なの?」や「自分にあった就労移行支援事業所に通うためにはどうすればいいの?」という疑問を持っている人もいるかもしれません。
この記事では、就労移行支援事業所を利用しても「意味ない」と感じてしまう理由や、その場合に取ってみるとよい対策、そのほかに課題を改善するための厚生労働省の取り組みなどについて、元就労移行支援事業所の支援員である筆者がご紹介していきます。
就労移行支援事業所が「意味ない」「やめとけ」といわれる理由とは?
就労移行支援とは、障害や難病があって就職が困難な人に対し、就職に向けた様々なプログラムを提供して就職活動をサポートするサービスです。
就労移行支援を利用することで、以下のようなメリットがあります。
- 自己理解が深まり、困りごとに対する対処法が身につく
- パソコンスキルなど就職に必要なスキルが身につく
- 仕事で必要なコミュニケーション能力が身につく
- 応募書類の添削や面接の練習を受けることができる
- 就職後も仕事で困ったことがあれば相談ができる(期間の定めあり)
一方で、一部の利用者からは、就労移行支援は「意味がない」「やめとけ」といわれることがあります。その背景には、利用者の期待と就労移行支援のサービス内容のミスマッチがあります。
通所を決める際に必要なことを確認しないと、通所後に「そのようなことは聞いていなかった」と感じ、不信感につながっていく場合があるのです。
就労移行支援を決める前に事前にサービス内容を確認し、お互いのミスマッチを減らすことで、就労移行支援に通う時間が有意義なものになります。
就労移行支援の課題・問題点と改善のための取り組み
就労移行支援を利用する人は増加し、利用者の層が幅広くなっています。
それに伴い「面談で様々な要望が出されるようになった」という変化を感じている就労移行支援もあるようです。
多様なニーズに対応するため各就労移行支援でプログラムを工夫し、ときには個別支援を強化しています。
しかし、利用者の本当のニーズや課題を把握する力は事業所ごとによって差があり、改善の余地があるとされています。
このような中で、利用者の課題を把握する力、すなわちアセスメント力を強化するため、厚生労働省は「就労アセスメント実施マニュアル」を開発したり、「アセスメントを介した他機関連携のための実践事例集」をまとめたしたりして支援力強化を図っています。
(参考:厚生労働省令和5年度障害者総合福祉推進事業「一般就労への移行に向けたニーズ等の変化に対応した取組に関する調査研究」(株式会社FVP))
就労移行支援事業所に行っても「意味ない」と感じてしまう理由
就労移行支援に通っても「意味がない」と感じてしまう具体的な要因は、以下のようなことが挙げられます。
①プログラムの内容が簡単すぎた、または難しすぎた
就労移行支援が提供しているプログラム内容は事業所ごとによって内容もレベルも異なります。
例えば多くの事業所で提供している「パソコンプログラム」を例に挙げると、同じパソコンプログラムでも「データ入力」から「プログラミング」まで幅広く提供しています。
選択を間違えるとプログラムに意味を感じられなくなり、通所自体が嫌になってしまうことがあります。
②スタッフと信頼関係が築けなかった
就労移行支援には、様々な経歴を持ったスタッフがいます。
スタッフの中には一般企業で経験を積んできた人もいるので、必ずしも障害福祉や心理学に詳しいスタッフばかりではありません。
障害理解が浅いスタッフによって適切ではない言葉がけをされ、それがきっかけで信頼関係が崩れた場合、「通所は意味がない」とマイナスな感情につながってしまうことがあります。
③事業所の利用者層が合わなかった
事業所によって異なるのはプログラムだけではありません。通所する利用者の障害特性や年齢層も違います。
自身とは違う障害や病気のある利用者ばかりだと、「気が合う人がいない」と感じる可能性があります。
また、若くて就労経験が少ない利用者が多い事業所に、就労経験豊富な人が通うことになると、物足りなさを感じるかもしれません。
利用者の属性を確認し、自身が心地よいと思える事業所選びが大切です。
④一般企業への就職に結びつかなかった
就労移行支援に通う目的は、一般企業への就職ですが、必ずしも全員が一般企業へ就職できるわけではありません。就労移行支援から一般企業等への就職率は57.2%です。
約4割の人は、「体調不良により通所ができなくなってしまった」「就労移行支援事業所のマッチングの引き出しが少なかった(適性に合った企業の開拓ができなかった)」「就労継続支援A型やB型への通所に切り替えた」などといった理由で、就労移行支援に通っても一般企業への就職に結びついていません。
自身の心と体の状況に合った選択肢を選ぶことが重要で、一般就職以外の選択肢の方が本人にとって適切なこともあります。
しかし、事業所のサポートが不足していた場合や自己理解が進んでいない場合に、「就労移行に通ったのに就職できなかった。意味がなかった」と感じてしまうかもしれません。
就労移行支援事業所が「意味ない」と感じた場合の選択肢
就労移行支援の通所は「意味ない」と感じてしまった場合、取ってみるといい対策がいくつかあります。試してみることで、状況が大きく変わるかもしれません。
①スタッフと一緒に通所の目的を再確認して、プログラムを見直す
受講しているプログラムがつまらない、もしくは難しすぎてわからないと感じるのであれば、スタッフに相談しましょう。
何のために就労移行支援に通い、そのために必要なスキルは何かをスタッフと共に再確認することが大切です。
例えば、「データ入力の訓練プログラムがつまらない」と感じていても、事務系の仕事に就くことが目的であれば必要なこともあります。
「データ入力なんて簡単だから自分はできる」と思っていても、実はミスが多いかもしれません。
スタッフによる客観的な評価を聞きながら就職に向けて必要なスキルを理解し、それに見合ったプログラムを選び直すことで、プログラムが有意義に感じるようになるかもしれません。
②担当スタッフを変更する
就労移行支援の担当スタッフが信頼できない、と感じたら、すぐに事業所のサービス管理責任者に相談してください。
サービス管理責任者とは、どこの事業所にも必ず存在し、事業所内の運営やスタッフなどの管理をしています。
必要であれば該当スタッフへ指導をしますし、担当スタッフの変更も検討してくれるでしょう。
スタッフへの不満を我慢して結果的に通所を辞めてしまうのは、とてももったいないことです。遠慮なく申し出てください。
③就労移行支援の事業所を変更する
「利用者層が合わない」ということに対しては、事業所内で対処することは難しいことでしょう。その場合は、事業所を変更するのも選択肢のひとつです。
相談支援事業所と関わりがある場合は、その担当者に相談するのがいいでしょう。関わりがない場合は、今通っている就労移行支援のスタッフが対応してくれるところが多いです。
いずれにしても、通所期間については注意が必要です。就労移行支援の通所期間は、原則で最大2年間です。今通っている事業所にすでに1年間通っているのであれば、新しい事業所の利用は最大1年間ということになります。
新しい事業所への変更を考える際には自身の残り期間を確認し、新しい事業所ではその期間で就労までつながる可能性があるのか、事前にしっかりと確認しましょう。
④就職・転職エージェントを利用する
通所状況や体調は安定しているけれど、年齢や転職回数の多さなどの理由で希望通りの企業や職種への就職が中々かなわない場合は、就職・転職エージェントを利用してみるのも選択肢のひとつです。
エージェントは、ハローワークや就労移行支援事業所がつながりを持っていない企業の求人を保有している場合も多いため、より自身の適性に合った企業を紹介してもらえる可能性があります。
⑤就労継続支援A型・B型など、他の就労支援サービスを利用する
通所中に何かしらの要因で自身の心や体の調子を崩してしまうことはあります。
その状況で「一般企業に就職しないと、就労移行に通った意味がない」と思い込み、無理して就職した結果、さらに大きく調子を崩してしまうケースは少なくありません。
就職のためには心身の安定がとても重要ですから、心身の安定を取り戻すために、就労継続支援A型やB型を利用する選択肢があります。その他にも様々な就労支援サービスがあります。
これらのサービスをうまく活用し、心身が整ってから、再度就職へ向けて動いていくことが一番の近道になることもあります。
就労移行支援のスタッフ、相談支援事業所の担当者、主治医、家族などと話し合って、より良い道を選んでください。
就労移行支援を利用して就職・転職した人の口コミ・体験談
就労移行支援は「意味がない」という声がある一方で、就労移行支援を利用することで就職に結びついたという人も数多くいます。
就労移行支援を利用して就職した利用者の声をいくつか紹介します。
30代男性(発達障害)の口コミ・体験談
就労移行支援に通う前は、自分の感情をコントロールすることが苦手でした。
通所してからも、スタッフに気持ちをぶつけてしまうことがありましたが、スタッフは自分の気持ちを受け止めてくれ、将来について一緒に真摯に考えてくれました。おかげで相手を信頼し、自分と向き合うことができました。本当に嬉しかったです。
就職後も就労移行支援のスタッフに相談しながら、今でも楽しく安定して働けています。
20代女性(精神障害)の口コミ・体験談
心身に不調を抱えたときは、すぐにスタッフが話を聞いてくれました。通所時にスタッフに「ここがひとつの居場所になればいいなと思っています」といわれたことを今でも思い出します。 心を落ち着かせる環境がなかった私にとって、就労移行支援は間違いなく自分の居場所でした。
また、趣味だったイラストやデザインの勉強ができたのは楽しかったです。私はもともと事務職で就職するつもりだったので、就職に直接は関係ないプログラムですが、とてもいい気分転換になり、他の学習をする気力がわきました。
そして、現在は希望だった事務職に就いて仕事を継続しています。
50代男性(身体障害)の口コミ・体験談
私の身体状態に合わせたパソコン操作法訓練、事務職としての働けるように実践的な訓練ができました。
理学療法士のスタッフが、私の身体に合わせたリハビリプログラムを作成していただけたことが非常に助かりました。
パソコンのMOSの訓練と並行して面接への同行や、就活イベントの提案をいただけたのはありがたかったです。
また、キャリアアドバイザーのスタッフによる面接対策や履歴書や職務経歴書の添削指導のおかげで、3ヶ月ほどで希望の職種で働くことができました。
意味のある就労移行支援を受けるための事業所の選び方
就労移行支援は、自身に合った就労移行支援を選ぶことによって意味があるものになります。
自身のニーズに合わない事業所に通うことがないよう、次のような視点を持って就労移行支援を選びましょう。
①事業所の見学に行き、雰囲気を見る
就労移行支援を比較するためには、実際に足を運ぶことが大切です。雰囲気がわかりやすいように、なるべく他の利用者がいる時間帯に見学に行くことをおすすめします。
利用者同士の会話が活発な事業所があれば、会話が少なくて静かに過ごせる事業所がありますから、自身が通所することをイメージして、違和感がないところを選ぶといいでしょう。
②体験利用をしてプログラム内容を確認する
多くの就労移行支援では、実際に提供しているプログラムを無料で体験できる機会を設けています。
難易度を把握するために、いくつかのプログラムに参加しましょう。
また、それ以外のプログラムについても、学べる内容やレベル感をスタッフに確認しておくのがおすすめです。
③就職に対する希望を整理して、スタッフに伝える
就職までの期間や道のりは人によって違います。金銭的な不安があってすぐに働きたい人がいるかもしれませんが、事業所の方針やプログラム内容によって、必ずしも希望の期間で就職できるとは限りません。
利用前に、いつまでにどのような仕事がしたいかという希望をしっかりと伝え、事業所で対応できるかどうかを確認しましょう。
また、事業所によって就職先の業種や職種に偏りが見られることもあります。自身が就職したい業種や職種が決まっているのであれば、事前に伝えておきましょう。
最後に
ここまで、就労移行支援事業所を利用しても「意味ない」と感じてしまう理由や、その場合に取ってみるとよい対策、そのほかに課題を改善するための厚生労働省の取り組みなどについて、元就労移行支援事業所の支援員である筆者がご紹介してきましたが、いかがでしたか。
お互いのミスマッチを減らし、就労移行支援に通う時間を有意義なものにするためにも、就労移行支援を決める前にサービス内容や雰囲気、就職実績などを事前に確認することが大切です。
就労移行支援事業所の検索サイト『デイゴー就労支援ナビ』では、プログラム・サービス内容や就職実績、職員の専門性などを比較することができますので、ぜひご活用ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。