強迫性障害があり就職が難しいと感じている方や休職をしている方の中には、「強迫性障害があるが、就労移行支援を利用したら就職できるの?」や「強迫性障害のある人はどんな職業が向いているの?」といった疑問をお持ちの方もいるかもしれません。
この記事では、強迫性障害のある人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れや利用するメリット、強迫性障害のある人に向いていると言われる職業について、精神保健福祉士である筆者がご紹介していきます。
強迫性障害の症状
強迫性障害は、100人のうち1〜4人が経験すると言われており、主に10代〜20代の比較的若い人の間で発症するケースが多い疾患です。
強迫性障害の症状には、「強迫観念」と「強迫行為」の2つがあり、現れ方は人によって異なります。生活をする中で、さまざまなことに対して不安感を抱くようになり、その不安を解消するために「無意味」と思われる行動を繰り返してしまいます。
たとえば、鍵をかけたにも関わらず、何度も家に戻って鍵がかかっているか確認しないと気が済まなかったり、何かを触る度に手が汚れているような気がして、長時間手を洗わないと気が済まなかったりと言った症状が代表的です。
強迫性障害のある人が就労移行支援事業所を利用するメリット
就労移行支援事業所とは、障害がある人の就職のための準備や就職活動を支援する通所型の障害福祉サービスで、全国に約3,000ヶ所存在します。一般企業への就職を目標としている障害のある人を対象に、就職に向けたさまざまなサポートが行われています。
ここでは、強迫性障害のある人が就労移行支援事業所を利用するメリットをご紹介していきます。
メリット①必要なスキルやビジネスマナーなどが身につく
就労移行支援事業所では、一般企業で働くために必要不可欠なスキルやビジネスマナーを身につけることが可能です。
事業所の中には、ITスキルなどある特定の分野に特化したプログラムが用意されているところもあり、働きたいと思っている企業が求めるスキルを効率的に習得できるので、就職活動をする際に有利になるでしょう。
メリット②障害の特性や健康の管理ができるようになる
強迫性障害のある人は、障害の特性をコントロールできずに、社会に馴染めないと悩んでしまうケースもあるでしょう。
就労移行支援事業所では、障害の特性を理解し、社会で働く上で必要となる自己管理力を身につけることができるので、安定して働き続けることが可能です。
メリット③コミュニケーション能力が高くなる
一般企業で働くとなると、まわりと円滑なコミュニケーションを図ることは避けて通れない課題とも言えます。しかし、強迫性障害がある人の中には、なかなか相手と適切なコミュニケーションを継続してとることが難しい場合も多く、就職の壁となってしまうケースがあるでしょう。
就労移行支援事業所では、就職活動や職場におけるコミュニケーションに関するスキルを身に付けることができます。
強迫性障害のある人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れ
次に、強迫性障害のある人が実際に就労移行支援事業所を利用して、就職するまでの流れをステップごとに分けて説明します。
ステップ①:基礎訓練
まず、就労移行支援事業所に通所し始めの段階では、個人の適性や苦手とする部分などを踏まえて、働く上で必要不可欠となるスキルを学びます。
例えば、毎日休まず通い続けることができるように、決まった曜日・時間に必要なプログラムを組み、そのスケジュールに沿って動けるようになることを目指します。
これは、生活管理や健康管理を身につけるために行われるもので、強迫性障害の特性から生活に支障が出やすい人が、働き続けるために必要なものです。
※いきなり週5で通所するのが難しい場合は、週1〜2日から通い始める場合もあります。
ステップ②:実践的な訓練
生活リズムや健康の管理ができるようになってきたら、より実践的な訓練に移行します。
例えば、他者とのコミュニケーションやビジネスマナーのほか、就職したい職種が決まっている場合はその職種に必要な専門的なスキルを学びます。
ステップ③:就職活動
上記のステップを踏んだ後は、実際に就職するための準備に入ります。
自分の弱みや強みを理解して自分に合った業種や職種を選び、職場見学や模擬面接などを行いながら、就職活動に向けた準備をします。準備が整ったら、実際に企業へ応募をしていきます。その際、履歴書などの応募書類の添削もスタッフがサポートしてくれます。
ステップ④:就職・定着支援
就職後も、就労移行支援事業所のスタッフによって、職場に
定着するための支援が行われます。必要に応じて、職場とスタッフが連絡をとりながら、元利用者が働き続けられるようにサポートをしてくれます。
※最大3年間の就労定着支援サービスを行っている事業所もあります。
強迫性障害のある人に向いている仕事・就職先は?
強迫性障害のある人は、強迫観念や強迫行為が常に頭の中を占めているため、その特性に合った職種を選ぶ必要があるでしょう。
そのため確認作業が少なく、自分のペースで働くことができる「WEBライター」や「工場での作業」、「データ入力」などの仕事は、比較的、強迫性障害のある人に向いていると言えます。
一方で、手や身体が汚れやすい作業が含まれる仕事や、確認作業が多いものは避けた方がいいと言われています。たとえば、「清掃員」や「警備職」「確認項目が多い事務職」などが挙げられます。
強迫性障害のある人が適職に就職するためのポイント
ここからは、強迫性障害のある人が適職に就職するためのポイントをご紹介していきます。
①強迫性障害のある人に向いている職種を探す
就労移行支援事業所で訓練をしていると、就きたい職種が色々と出てくる場合もありますが、大切なのは自分の特性に合っていて、無理なく働ける職場を選ぶことです。
また、強迫性障害の特性は、自分で完全にコントロールするのは非常に難しいため、それらに理解のない職場に就職すると、自分自身を苦しめてしまうので注意が必要です。
②相談窓口が設置されている職場を選ぶ
相談窓口が設置されている職場は、障害のある人に対して理解のある職場である場合が多く、働き始めてからも困ったことがあれば、すぐに対応してもらえる可能性が高いです。
必要に応じて、カウンセラーなどから職場へ働きかけてもらえるケースもあるので、安心して仕事に集中できるでしょう。
③不安なことは必ず相談する
一般企業で働き始めると、どうしてもまわりと自分を比べてしまいがちになるかもしれません。不安なことを自分の中だけにとどめて溜め込んでしまうと、強迫行為が強く出るなど心身のバランスを崩してしまう要因になるため、心配事などは早めに信頼できる上司などに相談するようにしましょう。また、通っていた就労移行支援事業所のスタッフにサポートしてもらうのも、おすすめです。
強迫性障害のある人におすすめの就労移行支援事業所の選び方
強迫性障害のある人におすすめの就労移行支援事業所の選び方をお伝えします。
ポイント①通いやすく雰囲気が自分に合っているか
就労移行支援事業所は、通所型の福祉サービスなので通い続けられなければ意味がありません。そのため、まずは自分自身が通い続けられるかという視点で選ぶことが大切です。
通いやすさはご自宅や駅からの距離だけでなく、事業所の雰囲気も重要な要素になります。
就労移行支援事業所によって、利用している人たちやスタッフの雰囲気もさまざまなので、見学や体験を通して自分に合った事業所を選ぶようにしましょう。
ポイント②障害の種別が対象となっている事業所か
一括りに就労移行支援事業所と言っても、それぞれの事業所によって対象としている障害の種別は異なる場合もあります。
また、精神障害の中でも、強迫性障害のある人に対する支援実績が既にある事業所の場合は、強迫性障害のある人が就職するための支援のノウハウが豊富な可能性があります。
ポイント③自分が求めるプログラム内容や就職実績があるか
就労移行支援事業所が行っている訓練プログラムは、事業所によって内容が異なります。
そのため、自分にどのような苦手分野があって何を克服したいのか、どのような職種に就きたいのかという点と照らし合わせて選んでみましょう
また、事業所によって就職実績も異なるので、より自分が希望する職種への就職実績がある事業所にすると、就職活動がスムーズに進みやすいでしょう。
就労移行支援事業所に関するよくある質問
Q1.就労移行支援事業所の利用条件・対象者は?
就労移行支援事業所は、以下の4つの条件を満たしている人が対象者とされています。
- 一般就労を希望している
- 障害・難病がある
- 65歳未満である※
- 適性に合った職場への就労等が見込まれる
サービスを利用できるかどうかの判断は市区町村が行っているため、「自分は就労移行支援事業所の利用対象者なのだろうか?」と不安の場合は、お住まいの市区町村の障害福祉担当部署にまずは相談してみてください。また、就労移行支援事業所のスタッフがサポートしてくれる場合もあります。
Q2. 障害者手帳なしでも就労移行支援事業所を利用できる?
就労移行支援事業所を利用する際は、主治医の意見書や自立支援医療受給者証等があれば、障害者手帳を持っていなくてもサービス利用の申請をすることができます。
Q3. 強迫性障害で障害者手帳を取得できるの?
強迫性障害は、障害者手帳を取得できる可能性が高いでしょう。
精神障害者保健福祉手帳の障害等級の判定基準において、強迫性障害は「その他の精神疾患」の部類に該当するとされているためです。
「その他の精神疾患」とは、WHO(世界保健機構)が発表しているICD-10に記載のある疾患で、「神経症性障害、ストレス関連障害及び身体表現性障害」「成人パーソナリティおよび行動の障害」「生理的障害および身体的要因に関連した行動症候群」などが含まれています。
Q4.就労移行支援と就労継続支援の違いは?
就労移行支援事業所と就労継続支援A型・B型事業所の大きな違いは、利用期間と一般企業等への就職率です。
就労移行支援が一般企業へ就職する人の割合が『56.3%』と一番大きく、反対に就労継続支援B型が一般企業へ就職する人の割合が『10.1%』と小さくなっています。※
また、就労移行支援事業所は利用期間が原則2年間となっていますが、就労継続支援事業所は利用期間に制限がありません。
※参考:厚生労働省 「就労移行支援に係る報酬・基準について」より
Q5.就労移行支援事業所は利用料がかかるの?
就労移行支援事業所の利用者が負担する料金は、1回あたりおよそ500円〜1,400円です。ただし、所得に応じてひと月当たりの負担上限金額が決まっているため、自己負担額なしで就労移行支援事業所を利用する人も多いです。
厚生労働省によると、障害福祉サービスを利用している人(98.5万人)のうち、約92.7%が無料で利用していることが分かっています。
区分 | 世帯の収入状況 | 負担上限月額 |
---|---|---|
生活保護 | 生活保護受給世帯 | 0円 |
低所得 | 市町村民税非課税世帯※1 | 0円 |
一般1 | 市町村民税課税世帯(所得割16万円未満※2)ただし、入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者を除く※3 | 9,300円 |
一般2 | 上記以外 | 37,200円 |
※1
3人世帯で障害者基礎年金1級受給の場合、収入がおおむね300万円以下の世帯が対象。
※2
収入がおおむね670万円以下の世帯が対象。
※3
入所施設利用者(20歳以上)、グループホーム利用者は、市町村民税課税世帯の場合、「一般2」に該当。
世帯の範囲は、障害のある人とその配偶者となっています。例えば同居している親の収入が700万円あったとしても、世帯収入とみなされるのは本人の収入のみとなります(18歳以上の場合)。ただし、配偶者がいる場合は、配偶者の収入も世帯収入に加えられます。
Q6.強迫性障害のある人は障害年金を受給できるの?
強迫性障害は、神経症の種類に入るため、原則的には障害年金を受給することはできないとされています。
しかし、診断書にうつ病など他の精神障害が併発していることが分かる記載があったり、妄想など精神病的な症状があったりする場合は、障害年金が認められる可能性もあります。
最後に
ここまで、強迫性障害のある人が社会で安心して働き続けるために、どのようにしたらいいのかという視点で、強迫性障害のある人が就労移行支援事業所を利用して就職するまでの流れや利用するメリットなどを精神保健福祉士である筆者が解説してきました。
強迫性障害のある人は、障害の特性からなかなか就職しても定着できないと悩んでいる人も多いかもしれませんが、就労移行支援事業所を利用することで、自分にふさわしい職場への就職が叶いやすくなるでしょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。