就労移行支援は、障害のある人が就職に向けたサポートを受けることができるサービスですが、利用中は原則として働くことができません。「就労移行支援に通いながら失業保険を受け取れたら、経済的な不安を減らせるのに」や「失業保険が減るなら、就労移行支援に行けないかもしれない」と悩んでいる人は多いのではないでしょうか?
そこで、この記事では就労移行支援と失業保険について社労士がわかりやすく解説します。就労移行支援を利用できる条件や失業保険でもらえる金額もご紹介するので、ぜひ最後までお読みください。
失業保険(失業手当)をもらいながら就労移行支援は利用できる
結論からお伝えすると、就労移行支援を利用しながら失業保険を受けることはできます。
会社で働いていた期間に一定期間雇用保険に加入し、退職後に失業保険を受けるために必要となる「失業状態であること」や「働く意思と能力があること」など条件を満たせば、就労移行支援を利用しながら失業保険をもらうことができるのです。
なお、就労移行支援の詳細は下記の関連記事でわかりやすくご紹介しています。
失業保険(失業手当)とは?
失業保険とは、再就職を目指す求職者の失業中の生活の安定のために雇用保険から手当が支給される制度です。雇用保険に加入していた人が失業した場合、ハローワークで手続きをして一定の条件を満たすと、就職が決まるまでまたは給付期間が終わるまで失業保険が支給されます。
障害のある人は「就職困難者」にあてはまるため、失業保険が通常よりも長い期間支給されます。
なお、失業保険の正式名称は「基本手当」ですが、一般的には失業保険や失業手当と呼ばれています。
(参考:よくあるご質問(雇用保険について)|ハローワークインターネットサービス、雇用保険の事務手続き 第13章失業給付について|厚生労働省)
失業保険(失業手当)でもらえる金額は?
失業保険で1日に受け取れる金額は「基本手当日額」と呼ばれ、個々の給与により計算されています。「基本手当日額」を計算するには、まず以下の式にあてはめて「賃金日額」を求めましょう。
離職した日の直前の6か月に支払われた給与×6÷180日=賃金日額 |
ここで求めた「賃金日額」に50〜80%(60歳〜64歳の人は45〜80%)をかけた金額が「基本手当日額」となります。
なお、賃金日額にかける割合は給与が少ないほど高い率になります。
失業保険(失業手当)でもらえる金額の計算例
計算例として、離職した日の直前の6か月に支払われた給与が15万円の場合で見てみましょう。
賃金日額は、150,000円×6÷180=5,000円となります。
つまり、一日あたり、5,000円の50~80%の金額(2,500~4,000円)を基本手当日額として受け取ることができます。
(参考:基本手当について|ハローワークインターネットサービス)
失業保険(失業手当)はどのくらいの期間もらえる?
失業保険の給付日数は、離職理由、年齢、被保険者であった期間および就職困難者かどうかによって決まります。
「被保険者であった期間」とは、会社を退職する日以前に雇用保険に加入していた期間のことをいいます。
【就職困難者】
被保険者であった期間 | |||
---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上 | ||
離職時年齢 | 45歳未満 | 150日 | 300日 |
45歳以上65歳未満 | 150日 | 360日 |
【一般の離職者】
自己都合の場合 | 被保険者であった期間 | |||||
---|---|---|---|---|---|---|
1年未満 | 1年以上10年未満 | 10年以上20年未満 | 20年以上 | |||
離職時年齢 | 全年齢 | なし | 90日 | 120日 | 150日 |
(参考:基本手当の所定給付日数|ハローワークインターネットサービス)
失業保険(失業手当)はいつ振り込まれる?
失業保険が振り込まれるのは「失業認定日から1週間ほど」ですが、初回の振込日は退職の理由により大きく変わります。退職理由ごとの初回の振込日の目安は下表のようになります。
退職理由 | 初回の振込日の目安 |
---|---|
会社都合での退職 | 初めての認定日から1週間ほどで振込 |
自己都合での退職 | 7日+2ヶ月後から支給開始その後の認定日から1週間ほどで振込 |
自己の責めに帰すべき重大な理由で退職 | 7日+3ヶ月後から支給開始その後の認定日から1週間ほどで振込 |
離職の理由を問わず、ハローワークで求職の申し込みを行った日(受給資格決定日)から7日間は「待機期間」といい、失業手当は支給されません。
会社都合で退職した場合は、待機期間が終わると失業手当が支給される期間となります。
一方で、自己都合や自己の責めに帰すべき重大な理由で退職した場合は、待機期間後に給付制限期間となります。なお、給付制限期間中にも認定日がありますが、失業保険の支給はないので注意しましょう。
なお、ハローワークでは、原則として4週間に1度のペースで失業の認定を行い「失業状態であり、求職活動を継続している」と認められると、その後1週間ほどで失業保険が振り込まれます。
就労移行支援に通いながら失業保険を受給できる人の条件
就労移行支援に通いながら失業保険をもらえる人は、「就労移行支援を利用できる条件」と「失業保険を受けられる条件」の両方を満たす人です。それぞれの制度を利用できる条件をご紹介します。
就労移行支援を利用できる人とは
就労移行支援を利用できる人は、次の4つの条件をすべて満たす人です。
- 一般就労を希望している
- 障害・難病がある
- 65歳未満である
- 適性に合った職場への就労等が見込まれる
難病の種類としては、もやもや病、筋ジストロフィー、潰瘍性大腸炎などがあり、2024年4月に33疾病が追加され、369疾病となりました。対象となる難病は厚生労働省の資料(障害者総合支援法の対象となる難病が追加されます)でご覧いただけます。
移行就労支援の対象者についてもっと知りたい人は、下記の関連記事をご一読ください。
(参考:障害者総合支援法|e-gov 法令検索)
失業保険を受給できる人とは?
失業保険を受けられる人は、次の3つの条件をすべて満たす人です。
- 失業していること
- 就職する意思と能力があり、積極的に求職活動をしていること
- 離職の日以前2年間に雇用保険の被保険者期間が通算して12か月以上あること
なお、解雇・倒産等により離職した人や、期間の定めのある労働契約の期間が満了し、契約の更新がないことにより離職した人等は、離職の日以前1年間に被保険者期間が通算して6か月以上あれば受給できます。
(参考:よくあるご質問(雇用保険について)|ハローワークインターネットサービス)
失業保険を受給するまでの流れ
失業保険を受け取るまでの流れは次のようになります。
それぞれのステップについて、順番にみていきましょう。
ステップ①:ハローワークで求職の申し込みをする
お住まいの地域を担当するハローワークで求職の申し込みと失業保険の受給申請をしましょう。ハローワークの所在地は、ハローワークインターネットサービスで公開しているハローワーク等所在地情報でご確認いただけます。
ハローワークの職員により、受給資格の決定と退職理由の確認が行われたあと「雇用保険受給資格者のしおり」が交付されます。このときに雇用保険説明会の日時が知らされるので、忘れずに出席しましょう。
ハローワークへ持参するものは以下のとおりです。
なお、写真については、マイナンバーカードを提示すると省略できます。
ステップ②:雇用保険受給者初回説明会に参加する
指定された日時に「雇用保険受給資格者のしおり」と筆記用具を持って、説明会に参加します。失業保険受給についての重要事項について詳しく説明されるのでしっかり聞いておきましょう。説明会終了後、「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」を受け取り、初回の失業認定日のお知らせがあります。
ステップ③:「失業認定申告書」を提出し、失業の認定を受ける
指定日にハローワークへ行き、「雇用保険受給資格者証」と「失業認定申告書」を提出して失業の認定を受けます。
初回の認定日以降は、原則として4週間に1度のペースで失業認定日が設定されます。
ステップ④:失業保険が振り込まれる
失業認定日から1週間ほどで失業保険が振り込まれます。
(参考:雇用保険の具体的な手続き|ハローワークインターネットサービス)
就労移行支援に通いながら失業保険を受給する注意点
就労移行支援を利用しながら失業保険を受けるときに注意したいことを3つご紹介します。
注意点①失業認定日に「失業認定申告書」を提出する
失業認定日には、忘れずにハローワークへ「失業認定申告書」を提出しましょう。
失業保険を受けるには、「積極的に求職活動をしているにもかかわらず失業している」とハローワークに認められることが必要です。
就職困難者の場合、対象期間中に1度求職活動をすることが求められますが、就労移行支援で就職の相談をしたり、講習やセミナーを受講したりすると、「求職活動をした」と認められます。
就労移行支援での就職相談などの求職活動の実績を「失業認定申告書」に忘れずに記載してハローワークに提出しましょう。
(参考:求職活動実績について|厚生労働省、失業認定における求職活動実績となるもの|厚生労働省)
注意点②障害年金も一緒に受給できる
失業保険をもらいながら、障害年金も同時に受け取ることができます。
現在、障害年金を受け取っている人は「失業保険と障害年金、両方もらってもいいの?」と心配になる人も多いかもしれません。
しかし、失業保険と障害年金は併給調整の規定がないので、減額されたり、支給停止になることはありません。両制度の受給要件を満たせば、失業保険と障害年金をダブルで受け取ることができます。
注意点③離職後すぐ働けないときは失業保険の受給延長を申請する
退職後、障害の状態が重くてすぐに働けないときは、失業保険の受給延長を申請しておきましょう。
失業保険を受給するには「働けること」が前提条件で、失業保険を受ける期間は「退職の翌日から1年」と定められています。もし働けない状態で失業保険を申請をしたとしても受給資格が認められず、給付日数が残っていても失効してしまうのです。
そのため、退職日の翌日から1年以内に30日以上継続して働くことができない場合は、受給延長を申請をすることで、「働けなかった日数分」受給期間を延ばしてもらえます。
受給期間は最長で4年(受給期間1年+延長期間3年)で、手続きはお住まいの地域を担当するハローワークで行います。
けがや病気で1ヶ月以上働くことができないとわかったときは、早めに失業保険の受給延長の申請をしましょう。
(参考:Q&A~労働者の皆様へ(基本手当、再就職手当)~,Q12,Q15|厚生労働省)
失業保険以外で就労移行支援の利用中に活用できる支援制度
失業保険のほかにも就労移行支援に通いながら活用できる制度を2つご紹介します。
障害年金
障害年金は、病気やけがで障害があり、日常生活や仕事の支障が出た場合に国から年金が支給される制度で、就労移行支援を利用していても減額されず受け取ることができます。
障害年金を受け取るには、保険料を一定期間納付していることや、国が定める障害の状態にあることなどの条件を満たすことが必要ですが、自分が条件を満たしているかを見極めるのは難しいケースが多く見られます。
「自分は障害年金が受け取れるのか」「障害年金の申請方法がわからない」など、障害年金でお困りのときは、年金事務所や街角の年金相談センター、障害年金専門の社労士へ相談してみましょう。
就労移行支援と障害年金の関係については、下記の関連記事でわかりやすくご紹介していますので、ぜひご覧ください。
(参考:障害基礎年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構、障害厚生年金の受給要件・請求時期・年金額|日本年金機構、街角の年金相談センター一覧|全国社会保険労務士会連合会)
生活困窮者自立支援制度
生活困窮者自立支援制度は、生活保護に至らないように自立を支援する制度で、経済的・社会的な自立に向けた相談支援を提供しています。
生活保護とは違い、生活扶助などの現金の給付はありませんが、離職等で住居を失う恐れのある人や、住居を失った人に対して家賃相当額の給付(有期)と就職に向けた支援を行っています。
このほかにも、就職や住まい、家計管理などの困りごとを支援員が一緒に考えて必要なサポートを見つけることもできるので、家計改善など生活面を再生したい人は一度相談してみるといいでしょう。
生活困窮者自立支援制度についての詳細は、お住まいの市区町村役所へお問い合わせください。
(参考:生活困窮者自立支援制度について|困窮者支援情報共有サイト)
最後に
就労移行支援を利用している間は原則働くことができません。退職前の会社で雇用保険に一定期間加入していた場合、退職後に「働ける意思と能力」があり、「積極的に求職活動を行う」ことができれば、就労移行支援に通いながら、失業保険をもらうことができます。
もし退職後に体調が優れず、30日以上働けない場合は、早めに失業保険の「受給延長」を申請しましょう。
失業保険のほかにも、障害年金や生活困窮者自立支援制度を利用することもできます。生活をサポートしてくれる制度をうまく活用しながら、就労移行支援を利用して就職を目指しましょう。
最後までお読みいただきありがとうございました。