ASD(自閉スペクトラム症)があるため就職が難しいと感じている方や休職をしている方の中には、「ASDがあるが、就労移行支援を利用したら就職できるの?」や「そもそも就労移行支援ではどんなサポートを受けられるの?」といった疑問をお持ちの方もいるかもしれません。
この記事では、実際に就労移行支援を利用して就職した筆者の体験談をもとに、ASD(自閉スペクトラム症)のある人が就労移行支援で受けることのできるサポートや、ASDのある人が就労移行支援を選ぶときのポイントをご紹介していきます。
ASD(自閉スペクトラム症)のある人が利用できる就労移行支援とは?
就労移行支援とは、障害のある人が一般企業へ就職する「一般就労」を支援する障害福祉サービスです。障害のある人の中でも、一般就労が可能であると見込まれており、かつその意思がある人を対象としています。
就労移行支援を利用する際には、料金こそ発生しますが本人が負担することはほとんどありません。厚生労働省によると、障害福祉サービスを利用している人のうち、約92.7%が負担金は0円であることが分かっています。
同じ就労系の障害福祉サービスには「就労継続支援(A型・B型)」もあります。就労継続支援と比較したうえでの特徴は、やはり就労移行支援には2年間の期限が設けられていることが挙げられるでしょう。
ASD(自閉スペクトラム症)のある人は就労移行支援でどんなサポートを受けられるの?
就労移行支援の事業所で行われているサポートは、主に以下の通りです。
- 一般就労に必要な知識や能力を養ったり職場体験に行ったりする訓練
- 求職活動の支援
- 本人の適性に応じた職場の開拓
- 就職後の職場定着のために必要な相談などの支援
就労移行支援の訓練
就労移行支援では、生活リズムを整え、コミュニケーションやパソコン、資格の勉強をしたり、SST(ソーシャルスキルトレーニング)や履歴書の書き方の講義を受けたり、多種多様な訓練を受けることができます。ただし、事業所の規模によって訓練内容に違いがあるため、事業所を選ぶ際には注意が必要です。
就労移行支援の就職活動の支援・就職後の定着支援
就労移行支援では、一般企業へのインターンシップや就職活動のサポート、就職後の定着支援も行っています。
就職活動では、履歴書の書き方や面接の練習、企業への配慮事項の伝え方をサポートしてくれます。ただ、事業所が直接就職先をあっせんしてくれるわけではないので、書類選考や面接、実習等を通して就職先を探すことになります。
また、就職後の定着支援では、働く中での困りごとや悩みごとについて定期的に就労移行支援事業所のスタッフに相談することができます。
ASD(自閉スペクトラム症)のある人への就労移行支援のサポート
ASD(自閉スペクトラム症)に特化して支援を行っている事業所は多くありませんが、発達障害に特化している事業所はあり、そうした事業所はASDがある人への支援実績も豊富です。また、就労移行支援事業所の職員の全てが福祉の専門分野出身とは限りませんが、作業療法士や精神保健福祉士、社会福祉士、臨床心理士といった専門資格をもつスタッフがいる事業所もあります。
ただ、特にASDに特化した事業所でなくても、個別に相談して利用者それぞれに合わせた支援を組んでいくことならほとんどの職員が可能です。一人ひとりのニーズに合わせたアプローチの必要性は、障害の種類を問わないためです。
ASD(自閉スペクトラム症)のある人はどんな仕事が向いている?
一般論として、ASDのある人に向いている仕事には以下のような特徴が挙げられます。
- 急な変更や例外が少ない
- 会話は必要最低限の報連相だけ
- ルーティンワーク
- 専門性が高い
- 集中力や正確性が求められる
- 単独作業
- ロジカル思考が重んじられる
具体的な業務内容としては、以下が挙げられるでしょうか。
- 倉庫でのピッキング作業(正確性の求められる作業)
- ライン工(反復性のあるルーティンワーク)
- データ入力(集中力と正確性が必要、リモート環境も作れる)
- 校正や校閲の担当
更に、興味と適性次第ではこういった業務にも携われる可能性があります。
- IT系に興味があれば、システムエンジニアやプログラマー
- 法律に興味があれば、企業の法務担当
何に関心やこだわりを持っているかによって大きく左右されますが、イレギュラーとコミュニケーションは少なければ少ないほどASDのある人にとって向いている職場といえます。逆に最も不向きな仕事といえるのは「電話対応」です。時間を考慮せずコミュニケーションを求められるのは、ASDの特性に反しています。
就職自体がゴールではなく、働き続けて定着してこその一般就労ですから、どの仕事が向いているかよりも、不向きで克服できそうにない作業や業務を割り出して配慮事項を絞り込む材料とした方が、将来的にはよいのではないかと思います。
【体験談】ASD(自閉スペクトラム症)のある私が就労移行支援を利用して正社員になるまで
就労移行支援を利用して正社員としての一般就労に至るまでどういったプロセスがあるのか、一例として私の体験談を載せていきます。とはいいましても、最終的に運の要素が強かったので、どこまで参考になるのかは分かりません。
大学の就活をきっかけにASDの診断が下りた
全てのきっかけは大学の就活でした。内定どころか二次選考すら進めず、就活うつにまで陥って心療内科クリニックに通い出していたのです。そこで学内の就活カウンセラーに勧められ、今通っているクリニックへ転院すると同時に検査を受け、卒業間近になってASDの診断が下りました。
まずは就労継続支援に通い始めた
バイトの経験すらなかったので、手帳交付後は就労継続支援B型から始めることになりました。そこからは次へ進もうと必死になり、1年余りでパソコン作業が中心のA型事業所へ移ります。しかし、そのA型事業所は経営不振で閉鎖となり、転所から2年で再び宙ぶらりんの状態となりました。
3年後、就労移行支援を利用することに
パソコン作業、それもライティングなら可能だと分かっていたので、それも踏まえて今度は就労移行支援を受けることにしました。無理なく通える距離で、幅広いことを扱っており、一定の段階を進めば職場実習や就職活動を受けるステップもある大手の事業所でした。
実は就労移行支援事業所での職場実習の縁から今の職業に決まっており、これが「運の要素」となります。自分の特性や適性を把握して実習先をセッティングして貰えたのも大きかったと思います。
これから就労移行支援を利用する方へのアドバイス
働くことへの悩みは尽きないと思いますが、就労移行支援を利用する上でのアドバイスを自分なりに伝授したいと思います。
- 自分の適性や障害特性、そして無理なくできる仕事をある程度知ることから始めましょう。
- 就労移行支援には期限があります。週5日は通える状態になってから通所を考えるのが望ましいです。
- 受け身の姿勢では就職に結びつきません。最後に求められるのは能動性です。
ASD(自閉スペクトラム症)のある人が就労移行支援を選ぶポイント
就労移行支援の事業所を選ぶうえで何が大事になるのでしょうか。それは「実績」や「通いやすさ」、「内容」、「定着支援の有無」です。
ポイント①実績
就労移行支援の実績とは、利用者が一般就労へ結びつくことです。就労率や就職件数については必ずチェックしておいた方がいいでしょう。大手でなくとも実績があれば望みはありますし、逆に大手の事業所でも就労率が低かったり就職件数が少なかったりすると名前に釣られる格好となるかもしれません。
ポイント②通いやすさ
無理なく通所できるかどうか、距離や交通手段などから判断するのも大事です。どれほど実績の豊かな事業所でも、毎日通うには無理のある距離だと、就職どころか途中でリタイアしてしまうかもしれません。ですから、事前に片道で何分かかるかは調べておくべきです。
ポイント③内容
就労移行支援事業所で何を学べるかも重要なファクターです。通所を始めてから自分の適性に気付くこともなくはないですが、あらかじめ分かっている適性に合った勉強をできる方がより確実でしょう。そのため、作業内容やカリキュラムは見学・体験の段階で全て把握するつもりでのぞむのがおすすめです。
何度も言いますが就労移行支援を受けられるのは有限です。性急に選ぼうとせず、自分が一般就労に至れるかどうか、実績と通所と内容の観点からチェックしてみましょう。その判断を大いに助けるのが事業所の見学・体験になりますので、いくつかの事業所の見学・体験に行き、比較・検討をしてみてください。
ポイント④定着支援の有無
事業所によっては、就労定着支援サービスを行っているところも多いです。就労定着支援サービスは、就職した企業へ訪問し、企業と利用者をつなぎながら、利用者が安心して働けるようサポートを行ってくれます。
就職すると環境や生活リズムが大きく変わるほか、新たな人間関係などで悩むこともあるかもしれません。そのようなときに顔なじみの支援員に相談できる環境があるのは心強いです。
最後に
ここまで、ASD(自閉スペクトラム症)のある人が就労移行支援で受けることのできるサポートや、就労移行支援を利用して就職したASDのある筆者の体験談、ASDのある人が就労移行支援を選ぶときのポイントをご紹介してきましたが、いかがでしたか。
ASDのある人が、就労移行支援の利用期間内に一般企業等へ就職するためには、実績・通いやすさ・内容といった観点から、ご自身にあった事業所を選ぶことが大切です。「デイゴー就労支援ナビ」では、駅からの距離や活動内容、就職実績といった観点から事業所を比較検討することができますので、ぜひご活用ください。
最後までお読みいただきありがとうございました。